人間同士の争いを危惧した女神は、巫女の体内に宿る子供を制限したのではないかとダレスは予想する。しかし女神が考えている以上に人間は愚かな生き物で、血を争いの道具に使わず金を生み出す道具とした。
結果、巫女の血は別の意味で混乱を招き、ルキアを精神的に追い詰めてしまう。絶対に次代の巫女を産め――今、彼等は沈黙を保っているが、いずれフィーナにそう言うに違いない。
そしていずれ、誰かと結婚しその人物との間に子供を儲けないといけない。それが女児なのか男児なのかはわからないが、ルキアの二の舞を踏んで欲しくないので女児の方を願う。
しかし、それでは自分の考えに矛盾が生じてしまう。巫女の血が永遠に失われて欲しいのなら彼女が巫女になれない男児を産めばいいのだが、それでは母親のように彼等から影口を言われ精神的に追い詰められてしまうので、それを回避するには次代を担う巫女を産まないといけない。
所詮、どちらに転んでも救いはない。
よくよく考えれば、血が存在するからいけないのだ。女神イリージアが巫女を生み出さなければ、多くの人間が「癒しの血」に惑わされ悲しみを見ないで済んだのだが、流石にそれだけは口が裂けても言えない。女神への侮辱は、人間が暮らす世界では許されないのだから。
「ですが、唯一母にも救いがありました。母は愛した人――父と結婚することができました」
「ダレスのお父さんって……」
「この都市にはいません」
「生きているの?」
「はい」
「一緒に暮さないの?」
「無理です」
「それは、ダレスを――」
「それもありますが、父は彼等を嫌っています。自分の妻を死に追い遣る原因を作ったのですから」
ルキアはダレスの父親ではなく、本当は別の男性と結婚しなければいけなかった。しかしその相手は神官達が勝手に選び出した相手で、ルキアの理想や願望を一切無視した相手だった。
巫女として軟禁に等しい生活を送っている中で、結婚相手も勝手に選ばれるという苦痛は計り知れない。その中で出会ったのがダレスの父親で、彼が持つ優しさに惹かれたルキアは相手に愛を示す。思考が鈍っている中で感じた一時的なものと神官達は嘲笑ったが、彼等の愛は偽りではなかった。


