「……ダレス」
「そうすれば、醜い争いを見なくていい」
本来の用途から逸脱した物は、それを使用する物に悪影響を与えてしまう。そう、以前読んだ本に書かれていたとダレスは言う。神官にとって巫女は道具そのもので、人間として扱ってはいない。だから精神を病んでいるルキアに採血を迫り、結果的に殺してしまった。
「母が死ぬ間際、このように言っていました。俺が産まれたことによってこれで採血に苦しむ巫女が生まれないで済む――と。しかし同時に、別の方面で巫女の誕生も恐れていました」
だからルキアはダレスに新しく巫女が誕生してしまった場合、巫女となった人物の側にいて欲しいと頼んだ。そしてルキアの予想は見事に的中し、この世界に新しい巫女フィーナが誕生してしまった。それにより欲に塗れた多くの者が彼女の血を吸い、ブクブクと醜く肥えていく。
心無い者が知ったら「母親の身勝手な願いで、息子の人生を縛り付けた」と言うに違いないが、ダレスは母親から「縛り付けられた」や「押し付けられた」という風には思っていない。寧ろ巫女の心情を理解しているからこそ、自分が側にいなければいけないと考えていた。
それにルキアが死んでから数十年後に誕生した、待望の癒しの巫女。彼等が躍起になって血を求めるのは火を見るより明らかで、現にルキアの時より採血の感覚が短いことが気に掛かる。
また、再び同じことが繰り返されるのではないか。また、最終的には彼等の欲望によって殺害されるのでは。その思いが日に日に強くなってきていることにダレスは気付くが、やはり感情には表さない。
「私も女の子を産めなかったら、こうなるの?」
「それは、俺の口からは何とも言えません。それに、何故母が女ではなく男を産んだのかも理由はわからないのです。記録では、その時代の巫女は必ず女を産んでその血を後世まで残していました。しかし、母の場合は違います。母は俺を産んで……そう、巫女は子を一人しか産めません」
「何故?」
「多分、憶測ですが……血を悪用させない為でしょう。巫女の血の治癒力は、強力過ぎます」
巫女の血は、あらゆる病と傷を癒す力を持つとされている。同時に血があれば、不可能を可能にすることもできる。人間の心は想像以上に不安定で、負の面を芽生えやすい一面も持つ。それが芽生えた人物が一国を背負う者だったら、最悪争いに発展してしまう。そしてその争いに巫女の血を使えば、傷付いた兵士を癒し再び戦場に投入でき泥沼に発展する。


