ダレスの話では、母親が亡くなった後から手入れされなくなってしまったという。本来この場所は「巫女の思い出の場所」として大切に手入れしなければいけないのだが、正しく巫女の役割を果せなかった者の為に労力を使うのは惜しいという結論に至ったのだろう、庭園と呼ばれていた場所は時間の経過と共に荒れ果て、今では見るも無残な姿を晒している。
そして、ダレスが指で示した方向にある苔生した石。それがルキアの墓石で、癒しの血を多くの者達に与え続けてきた者の悲惨な末路――いや、神官達の非情な仕打ちを物語っている。
「母は、多くの人間を救いました。しかし次代の巫女を産めなかったことにより、神殿の片隅に追いやられ……」
多分、歴史上からも名前が抹殺されているかもしれない。ただ、女児が埋めなかったそれだけの理由で。次代の巫女を埋めなかったことにより、神官達はルキアを面と向かってではなく陰口で批判していく。それによりルキアは精神が病んでいき、食が細くなっていった。
しかし神官達が行った中で一番残酷なのは、精神を病んでいるルキアに採血を求めたこと。彼女が病んでいる理由を知っていながら、ましてや自分達が陰口を叩いている中で「巫女の務め」ということで採血を行い、彼女を追い詰めていく。その結果、衰弱死してしまう。
ダレスが語る過去の出来事に、フィーナの顔は青ざめていた。先代の巫女が次代の巫女を産めなかったという話は知っていたが、まさかその背景に悲惨な出来事が隠されていたとはそもそも知る由もない。
誰も真実を語らない。
誰もが口を紡ぐ。
女神イリージアの神殿内に隠された真実は、決して表に出してはいけない。表面上、ルキアの死は病死と公表されている。癒しの血が体内に流れている巫女であっても己の血で己の病気や傷を癒すことができないので、病死と公表しても何ら違和感を持たれることはない。現にフィーナもダレスから死因を聞かされる前まで、ルキアが病死したと信じていた。
「何故、そうまでして……」
「血の為でしょう」
「巫女の血?」
「しかし、巫女の血は汚れている」
巫女の血は本来、人々を病や怪我の恐怖から解放する為に女神が齎したものだが、長い年月の経過と共にそれは一部の人間の欲望を満たす道具へ変貌し、正しい意味での血のあり方が失われてしまった。だから、ダレスは言う「巫女の血など、永遠に消え去ればいい」と――


