新緑の癒し手


「貴女様にとって、良いことでは……」

「大丈夫。大丈夫よ……」

「そう、仰るのでしたら」

 フィーナの精神状態が安定しているのなら、彼女の同行を許さなかった。しかし不安定の状況で残した場合、彼女の身に何が起こるかわからない。また、神官の行動も油断できない。

 だから、共に行くことを受け入れた。ダレスが了承してくれたことが嬉しかったのか、フィーナは嬉しそうに微笑む。その屈託のない笑顔にダレスは間違った選択をしそうになった自分を責め、巫女の身を第一に考えず己の意思を優先してしまったことを心の中で詫びた。

「参りましょう」

 フィーナを連れダレスが向かうのは、神殿の裏手。その場所は滅多に人が立ち入らないので、草木は何年も手入れされておらず伸び放題。また、当然道も整備されていないので歩き難い。

 スカートの裾を上げ悪戦苦闘しつつ何とかダレスの後を追うフィーナだが、ダレスは何回も利用している道なので歩き難いと感じず、整備されている道を歩いていのとかわらない速度で歩いている。

「ダレス、歴代の巫女の墓は――」

 見当違いの方向に向かっているダレスに、フィーナは歴代の巫女が眠っている墓は別の場所にあるので方向が間違っていると指摘する。彼女の指摘にダレスは足を止めると、静かに頭を振り母親の墓は此方の方向で正しいと言葉を返すと、再び歩き出し開けた場所へ出る。

 懸命にダレスの後を追い同じように開けた場所に到着したフィーナは、周囲を見回し自分がいる場所を確認する。鬱蒼と茂る木々の隙間から見えるのは、石造りの神殿。現在の位置から外壁が見えるということはそれほど長い距離を歩いていないということがわかるが、いかんせん歩き難い道を歩いて来たので体力の消耗が激しく、肩で呼吸を繰り返していた。

 だが周囲に漂う違和感を感じ取ったのか、フィーナは風雨の影響で原型を殆んど留めていない噴水の側へ行き、そっと冷たい石に触れる。かつては庭師の手によって綺麗に剪定されていた薔薇は好き勝手に伸びた結果、薔薇本来の美を失い何処か禍々しさを漂わせている。

「この場所は……」

 崩れ落ちている噴水と明らかに人の手によって植えられた植物の数々に、フィーナはかつてこの場所が「庭園」と呼ばれていた場所だったということに気付く。その点をダレスに尋ねると、彼女の考えが正しいということを示すように軽く頷き返す。そして一言「母が好きだった場所」と、付け加えた。