新緑の癒し手


 確かに彼が言っているように血は止まっていたが、これで傷口が治癒したというわけではなく、それに薔薇を手折った手が汚れている。このままでは傷口から細菌が感染し化膿してしまうと恐れたフィーナは、ダレスの手を取り出したハンカチで拭こうとするが、寸前で拒絶されてしまう。

「構いません」

「で、でも……」

「ハンカチが汚れます」

「大丈夫。これくらい――」

 ダレスはフィーナの私物が汚れてしまうことを嫌っているようだが、彼女にしてみればこれくらいはどうでもいい。それ以前にフィーナは、ダレスが自分の為に傷を負ったことが心苦しく、無意識であるが薔薇を求めてしまったことを詫びるように再度傷口を拭こうとした。

 刹那、フィーナは我が耳を疑う。

「俺に触れるな」

 それは、紛れもなくダレスが発した言葉。

 それも、感情を露にし。

「ダレス?」

「申し訳ありません」

「どうしたの?」

「本当に、申し訳ありません」

 何かを隠すかのように、反射的にダレスは一歩一歩と後退していきフィーナとの距離を取る。それに感情を表したのは先程の短い言葉だけで、今の彼の口調は普段と変わらない。しかし違和感だけは隠し切れず、それを悟られないようにフィーナから視線を逸らしていた。

「これから先、俺に触れないで下さい」

「何故?」

「理由は話せません」

「どうして話せないの?」

 だからといって、本当の意味でフィーナを拒絶しているわけではない。これから先もダレスは彼女にとっての教育係兼守護者という立場は代わらず、それに相談相手も勤めていくという。

 しかしそのように言っても、彼女に触れて欲しくない。だがそのように言っても彼は採血後のフィーナの傷の手当てをしてくれ、勿論彼女の肌に触れていたが記憶を探れば彼の行動は不自然な点が多い。一番不自然な行動というのは手当ての時「瞼を閉じて欲しい」と、ダレスは言っていた。多分、その言葉が今の行動に関わっているのだろうと、フィーナは思う。