巫女の癒し血を求め、様々な思惑を持つ人間が密集する都市。それから発生する莫大な富は都市を徐々に作り変えていき、現在の聖都ディアンヌが抱えている二面性を浮き彫りにする。
本来、血は全ての人間に分け隔てなく与えなければいけないものだが、いつの間にか血は一部の人間の欲望を満足させる道具へ成り下がり、特に神官達がそれを独占しているのが現状。
自身の母親と神官達の行動を間近で見ていたダレスは、正しい血の使い方に反した行動を取ったからこそ、母親が男子を産んだのではないかと考えている。現に母親以前までは巫女は、時代の巫女となる女児を産んでいたのだから。だが、神官達はそれを決して認めない。
なら、何故再び巫女をつかわしたのか――
正直、癒しの血が永遠に失われてしまった方が人間の為になるのではないか。欲に塗れた血など、疾う昔に汚れてしまっているのだから。だが、再び巫女のフィーナが目の前にいる。神官達は「女神が見捨てなかった」と喜んでいるが、誰も女神の御心など知る由もない。
ダレスはフィーナを一瞥した後、徐に口を開く。現在、唯一彼女が行ける場所は中庭。一応、神殿の中なので多くの人の目が届くので、彼等も其処なら何も言わないだろうとダレスは言う。
「なら、中庭で」
「はい」
「では、まず髪を梳いて下さい」
「そうだったわ。でも、自分で髪を梳くのは久し振り。普段は、侍女がやってくれているもの」
「迷惑ですか?」
「そんなことはないわ。最初は、自分でやりたいと思ったけど……彼女達の仕事だと思って……でも、湯浴みの時は恥ずかしくて……私、何を言っているのかしら。その……御免なさい」
「いえ」
相手が同性であったらこのような話をしてもいいのだが、ダレスは同性ではなく異性。そのような人物に湯浴みの状況を話したことに羞恥心が湧き出したのか、彼女の頬が赤くなっていく。
しかしダレスは、彼女の話を聞いても相変わらずの無表情であった。話に全く興味を抱かないのか、普通に受け答えをしている。この話により多少の変化があるのかと期待したフィーナだが、いつものダレスの姿に心が痛む。彼にどのような言葉を言っても、顔の筋肉は動かない。これだけ無表情が続くと、顔に筋肉が存在するのかどうか怪しくなるほどだ。


