だから女神から癒しの力を賜った巫女が、瞼を泣き腫らし生気が感じられない表情を浮かべるものではないとダレスが言う。だが無表情で何を考えているかわからないダレスも、悪魔のような心の持ち主ではない。彼は一通り「巫女の役割」を説明した後、言葉を続ける。
時には、泣いてもいいと――
特にフィーナは産まれ持っての巫女ではないので、覚悟も信念も抱く前に強制的に神殿に連れて来られた。その中で「巫女様」と呼ばれ、定期的に体内に流れる癒しの力を抽出される。それに軟禁状態に近い状況に置かれ、同年代の普通の女の子と同じことができない。
だからダレスは、素直に感情を表していいと言った。それさえも奪う権利は、誰も持っていない。それにフィーナは巫女としての使命を果しており、多くの病人や怪我人を救っていると話す。
「……有難う」
「礼を言われることではありません」
「いえ、有難う」
「……はい」
現在、フィーナの心情を一番理解できるのはダレスしかいない。これも彼の母親が巫女だったということが関係しているだろう、フィーナにとってダレスが側にいて話し相手になってくれることは神殿の中で一人孤独に生きる自分の慰めにもなり、また安らぎでもあった。
「どうかしら?」
「腫れが治まったようです。これなら外で出ても、誰からにも怪しまれることはございません」
「ダレスも一緒に……」
「お約束は覚えております。ですが、行ける範囲は限られております。流石に、遠出は……」
「神官……かしら」
「はい」
癒しの力を持つ者は世界でただ一人しかいないので、彼女が神殿外へ出る場合は何かと準備が必要だ。この「準備」というのは大袈裟な言い方だが、これも全て癒しの巫女を護るためというわけである。何か巫女の身に起こり、命を落としたら――神官達はそれを恐れた。
それは過保護に似たやり方であり、そもそもフィーナの身を神殿に軟禁しているのも全ては巫女の身を案じてということだが、裏の面を見れば癒しの血が他の場所で使用できないようにする為である。一種の独占というべきか、だからこそこの都市は大きく発展を遂げた。


