一旦、ダレスが部屋から退出したことに、状況の悪化を危惧した神官と侍女の面々だが、彼の説明と普段と変わらない態度に状況の悪化は取り越し苦労と知るが、神官達はそれで納得するわけがない。
一部の神官はダレスに詰め寄ると、何故フィーナが外へ出て来ないのか尋ねる。彼女の気持ちを理解していない傲慢な態度に、ダレスは詰め寄った者達に珍しく辛辣な言葉を発する。
「煩い」
滅多に感情を表面に表さないダレスが発したその短い言葉は、扉の前に集まっている者達の表情を一変させるには十分な効果があった。また痛い部分を突かれ動揺を隠し切れないのか、ダレスに詰め寄っていた者達は彼の側から離れると、彼の為に道を開ける。その素直な態度にダレスは特に言葉を投げ掛けることなく、一定の歩調で目的の物を取りに向かう。
そして水が張られた桶と清潔なタオルを持ち再び姿を現したダレスに、多少の違和感を抱くもその理由を尋ねるものは誰一人としておらず、ただ沈黙の中で彼の行動を見守っていた。
「お持ちしました」
「有難う」
「これで、腫れた瞼を冷やすといいでしょう」
桶の中でタオルを濡らし、それをフィーナに手渡す。フィーナは受け取ったタオルと瞼に当てると、瞼を閉じ肌から伝わってくる心地よい冷たさにうっとりとした表情を浮かべた。
「フィーナ様は、その表情の方が――」
「……?」
「その表情の方が、貴女様らしいです」
ダレスらしからぬ言葉に、フィーナの頬が微かに紅をさしたかのように赤くなっていく。彼女が暮していた村には同年代の異性が何人もいたが、誰からもこのような言葉を言われたことがなかったので言葉の意味合いを過剰に受け取ってしまうが、次の言葉で意味合いが違うと知る。
「巫女の笑顔は、民を幸福にします」
勿論、彼が「特定の誰か」に特別な言葉を贈ることはしない。それは彼の性格からわかっていたことだが、フィーナは彼が発した言葉が自分に向けられた特別な言葉を勘違いする。
しかし同時に、巫女は血を与えるだけが役割ではないと知る。時に民の前にその姿を晒し、女神イリージアの力が確実に存在するということを印象付けないといけない。多くの人間が一度も会ったことのない女神を信仰しているが、やはり目に見える巫女という存在の方が安心できる。


