新緑の癒し手


 彼の疑問は集まっている者達全てが抱いている内容だが、流石にこの状況で口に出していいものではない。集まっている者達は言葉に出した神官を睨み付けると、無言の圧力を掛けていく。

 勿論、彼の言葉はフィーナの耳にも届いていた。現在の行動と発言を総合するとそのように言われても仕方がないが、彼女が頼れるのはダレスしかいない。だから、彼だけを許した。

 彼女の行動と過去の母親の姿を合わせ、フィーナの身に何かが起こったと判断したダレスは、彼女の言葉の通り自分だけが部屋の中に立ち入るということを周囲に伝え、扉を開いた。

 ダレスが部屋に立ち入ったと同時に見たのは、裸足で扉の側に佇んでいるフィーナの姿。その弱弱しい彼女の姿にダレスは扉を閉めた後「ご自身の身に何かあったのか」と、尋ねていた。

 彼の言葉にフィーナは無言で頷くと、途切れ途切れであったがセインのことを話していく。彼女の説明にダレスは、返す言葉が見付からない。そもそも最初からセインの性格と特徴を話し注意を促しておけば、このようなことにはならなかったのか。いや、純粋なフィーナにセインが本来の性格を話していいものではない。何せ、あの男は特別といっていいほど質が悪い。

「ダレス」

「はい」

「……外へ連れて行って」

「宜しいのですか?」

「貴方と一緒なら」

「わかりました」

 巫女の命令に従うという形で動いていたダレスだが、セインの件を聞いた今、彼は珍しく本心で動く。しかし、すぐに彼女を連れて部屋の外へ出るわけにはいかない。まず寝台の近くに乱暴に脱ぎ捨てられた靴を履き、乱れた髪を梳かし直す。そして、泣き腫らした瞼を何とかしないといけない。

 それに今の状況で部屋から出た場合、集まっている者達に心配を掛けてしまう。ダレスの指摘にフィーナは両手で腫れ上がった瞼を擦るがこれでは逆効果で、それどころか目を傷めてしまう。

「水とタオルをお持ちします」

 昔、母親が泣き腫らした瞼をタオルで冷やしていたことを思い出したダレスは、そう言った後、目的の物を取りに向かう為に部屋から出て行こうとする。ふと、彼の行動に不安感を覚えたのかフィーナが発する雰囲気が変化する。それを感じ取ったダレスは足を止め振り返ると「必ず戻ります」と彼女を安堵させる言葉を残し、彼女がいる部屋から出て行った。