新緑の癒し手


「いえ、そのようなことはございません。多分、疲れが影響しているのだと思います。ですので、ご心配は――」

「忙しいの?」

 彼女の言葉が、ダレスの言葉を遮る。確かに忙しいといえば忙しいが、それが自分自身に課せられた仕事をこなしているので、別に「忙しい」という感覚は持っていない。またフィーナにどのように勉学を教えるのか考えるのも、個人的に面白いという感覚をダレスは持つ。

 ふと、自身が発した「忙しい」という言葉に付属する形で、彼女はダレスがナーバルの命令で何処へ出掛けていた理由(わけ)を問う。しかし、あの件の顛末を話すのには内容が憚られる。

 そもそもフィーナが「娼婦」に対し、どのようなイメージを持っているのかわからないそれに信頼を置く娼婦を悪く言いたくはないが、癒しの巫女と娼婦はそもそも釣り合いが取れない。

 結果、言葉をはぐらかす。

「申し訳ありません」

「いいの。私こそ、御免なさい。ダレスにはダレスの仕事があって……全部聞いたら、束縛になってしまうもの」

 フィーナは自分が発する言葉を聞きつつ、内心「馬鹿みたい」と自身を罵倒していた。根掘り葉掘り聞き出すということは、言葉として表現した通り完全な束縛になってしまい、いくらダレスが巫女の教育係兼守護者であったとしても全ての面を縛り付けていいものではない。

 「巫女様」と呼んでくる神官達より信頼が置けるという理由から、ついついダレスのことが気になってしまう。それが過度に暴走した結果、自分が知らない彼の行動を聞き出そうとしていた。その何とも身勝手で浅ましい行動に、フィーナは心の中で溜息を付いていた。

「そういえば、本を貸す約束をしていました。採血のことがあり、スッカリ忘れていました」

「もう一冊、いいかしら」

「はい。何冊でも」

「もう一冊の方は、挿絵がない本でも……ちょっと、そういう本も挑戦してみようかと……」

「同じく、恋愛でしょうか」

 彼の質問にフィーナは頷き返すと、ダレスは本棚から恋愛要素が含まれた本を探し出す。彼が次に用意した本は、主体となる話の内容は最初に用意した本と同じ冒険小説。だが前編と後編に別れている壮大世界を舞台とした冒険ファンタジーで、書かれている文字がやたら小さい。