母親の二の舞を――
だから、ついつい厳しい口調になってしまう。
それに他者の身体を心配する前に、ダレスが指摘するように自分自身の肉体の管理ができなければ話にならない。それに巫女の治癒能力が高いとはいえ、生身の肉体なので勿論病に罹る。
流石に病に臥せっている巫女から血を採血するとは考え難いが、神官達の行動は時に常識を逸脱するので侮れない。だからフィーナには、常に万全の状態を保っていて欲しいと彼は願う。
その心遣いにフィーナは軽く頷くと、彼女は冷めてしまった紅茶をカップに注ぐとダレスに差し出した。しかし利き手の調子がなかなか戻らないのか、利き手とは逆の手でカップを受け取る。それにより、彼の利き手に異常が発生したことをフィーナに気付かれてしまう。
「其方の手?」
「何か?」
「ダレスの利き手は――」
「仕事上、両方使えます」
そのように誤魔化しの言葉を発するが、半分が嘘で半分が真実。彼の利き手は右だが、現に逆の手でも文字が書ける。彼の言葉にフィーナは疑問を抱くが「両方使える」と言われては、言葉を続けることはできない。それにダレスは、何ら不自由なく左手で紅茶を飲んでいた。
ふと、後方に隠していたダレスの利き手が前方に出され、フィーナの目の前に晒される。問題が発生したので後方に隠していたとフィーナは予想していたが、彼の利き手にそれらしき痕跡は何もない。
なら、何の為に隠していたというのか。命令を使いその理由を尋ねれば疑問が解決するのだが、自分の立場を使い相手をどうこうするのを嫌うフィーナが、彼に命令できるわけがない。
落ち着きのない彼女の態度でダレスは、フィーナが利き手を後方に隠していた理由を尋ねたくとも尋ねられない状況に陥っていると知る。彼としては理由を話したくないというのが本音だが、フィーナに疑問を持たせたままでは今後に差し支えると考え理由を話していく。
「痺れです」
この話もまた、半分が嘘で半分が真実。だが、この嘘は彼女に付いた残酷な嘘ではなく優しい嘘。それに今、全ての真実を話したとことでフィーナが全てを受け入れてくれるかどうか怪しく、ついつい最悪な結末を予想してしまう。だからダレスは、半分だけ嘘を付く。その結果、フィーナは「悪い病気?」と再び尋ねてくるが、深くは追求してこなかった。


