ダレスの提案をフィーナが受け入れないわけがなく、それに早く神官達の側から離れたかった。フィーナはダレスと並ぶかたちで彼の部屋へ向かうその行動は、明らかに神官達から逃げ出している。
彼等の行動を眺めていた数名の神官達は何か言いそうな雰囲気であったが、ナーバルが採血用に使用されている部屋から出て来たのを確認すると、巫女がダレスと一緒に行ってしまったということを報告する。
「構わない」
「宜しいのですか?」
「巫女様は、ご自身の責務を果された。これ以上の束縛は関係ない。それとも、何か不服か?」
「い、いえ……」
正論を語るナーバルの迫力に、報告をしていた神官達は完全に負けてしまう。彼等は自分の未熟さを恥じるように頭を垂れると、身を小さくしている。一方正論を語っていたナーバルは、言葉と心に抱いている野心が一致していない。彼はダレスとフィーナが立ち去った方向に視線を向けると、周囲に悟られないように不適な笑みを浮かべ更なる権力を得た自分を想像する。
想像はいつか、現実へと――
そのように自身に言い聞かせると、巫女の血を使い多くの病人と怪我人を救いに向かう。本来の役割を忘れてはいけない。ナーバルは表情を崩さず心の中で笑うと、他の神官達と共に歩みを進めた。
◇◆◇◆◇◆
「冷めてしまいました」
ダレスは部屋に戻ると同時にティーポットを触れ温度を確認するが、彼が発した言葉の通り完全に冷めてしまっている。フィーナに温かい紅茶を飲んでもらいたいと再度淹れに向かうが、彼女は冷たいままでいいと言いダレスに側にいて欲しいと雰囲気で訴える。彼女の言葉にダレスは頷き返すと、冷たくなってしまった紅茶をカップの中に注ぎ入れ彼女の前に差し出す。
「有難う」
「敬語……直りましたね」
「はい」
最初、敬語を直すのに時間が掛かるのではないかとダレスは危惧していたが、彼女の現在の言葉遣いは完全に敬語が抜け切っている。これでフィーナが巫女としての威厳を保つことができるとダレスは安堵していたが、今度は違うことでフィーナの身を案じるのだった。


