結婚して欲しい――

 そう、ダレスはフィーナに告白する。

 今も当時の光景を鮮明に思い出し、フィーナの心に温かいモノが広がっていく。沈着冷静と考えていたダレスが、しどろもどろになりながら告白する姿は可愛らしいものがあったが、それ以上にきちんと告白し結婚というかたちを取ってくれたことが、フィーナは嬉しかった。

「しかし、あいつも変わった」

「それは、皆様のお陰で……」

「違う。それはフィーナの影響が強い」

「私?」

「フィーナが神殿に来てから、確実に変わりだした。当時、あいつは否定していたが……正しかった」

 だから、ダレスはフィーナと結ばれることが許されなかった時、ヘルバは面と向かって否定することができなかった。その主な理由として、フィーナが側にいればダレスが変わってくれるのではないのか――友の変化も勿論だが、一生の伴侶を得たことは実に喜ばしい。

「友として、幸せになってほしい」

「はい。勿論です」

「それと、身体で何かがあった時……」

「それですが、宜しいのですか?」

「こればかりは、村の者に頼めないだろう? まあ、ダレスは知識としてある程度は持っているだろうが……」

「ですので、ヘルバさんや皆様のご厚意は有難いです。お陰で、何も心配することなく……」

 ヘルバの指摘にフィーナは、自身の下腹部に手を添え愛おしそうに撫でる。膨らんでいる下腹部は、彼女の体内に新しい命が育まれている証拠。大好きな人の子供を宿すことができたことにフィーナは母性溢れる素敵な表情を浮かべると、いい子を産みたいとヘルバに話す。

 現在フィーナは、有翼人の薬師に身体の管理を任せている。本来であったら村の者に頼むべきだが、いかんせん竜は卵で産まれるので人間の出産の知識は皆無。一方有翼人は人間と同じく人の形で出産を行うので、フィーナの体調管理や出産まで彼等に任せることにした。

 時折ヘルバは村を訪ねフィーナの様子を見に来ているのは、そのような背景が関係していた。しかし本当の理由は、ダレスとフィーナの熱々の結婚生活を茶化すのが面白いからだ。また、彼等を見ているとほのぼのとした気持ちが湧き出し、ヘルバも幸せな気分になってくる。