数ヵ月後――

 竜の村は、いつもと変わらない平和は時間が流れていた。

 フィーナは最近、日差しが心地いい窓辺に陣取り編み物をすることを日課としていた。村の者に教えてもらった当初はなかなか上手く編めず歪な物を作っていたが、何度か練習しているうちにマフラーを編めるまで成長する。そして今彼女が挑戦しているのは、三色の糸を使った膝掛け。

 これは自分で使う物ではなくダレス専用に編んでいることは、幸せに満ち溢れた表情から窺い知ることができた。すると長く一か所を見続けていたことで疲労が蓄積してしまったのか、フィーナは顔を上げると身体に溜まった疲れを吐き出すかのように何度か溜息を付く。

 そして何気なく視線を窓の外に向けると、見慣れた人物が此方にやって来るのに気付く。その人物はヘルバで、贈り物を用意しているらしく大きい包み紙が目立つ。ヘルバは窓辺の近くにいるフィーナに軽く手を上げ挨拶すると「元気にしているか」と、いつもの言葉を掛ける。

「勿論です」

「ダレスは?」

「今、お義父さんのもとに――」

「今日も、しごかれているのか」

「ダレスは、次期族長ですから」

「しかし、その「お義父さん」という言い方、やっと慣れたみたいだね。最初は苦労していたようだけど」

「あの時は、恥ずかしく……」

「ダレスと結婚したのは、嫌だったのか?」

 ヘルバの突然の発言に、フィーナは顔を紅潮させながら「そんなことはないです」と、大声で言い放つ。大人しいと思っていたフィーナの変化にヘルバはクスクスと笑うと、失礼な質問をしてしまったと詫び、ダレスと仲良くやっているのならそれでいいと言葉を返す。

 フィーナは今竜の村に完全に溶け込み、村の者から高い信頼を得ている。その証拠に村の全員がダレスとフィーナの結婚を温かく祝福し、結婚式当日は村全体がお祭り騒ぎだったことをヘルバは覚えている。特に年配の者が二人の結婚を過度に喜び、一部の者は感涙にむせぶ。

 当時の出来事を鮮明に思い出したのか、フィーナの表情が緩む。まさかこれほどまで祝福されるとは思ってもみなかったのだろう、竜の器の大きさに感謝しきれない。それにフィーナはダレスの側にいることができればいいと考えていたので、結婚はまさに意外そのもの。