新緑の癒し手


 本来ならそれ相応の対応をし運んでいくのだが、暴れているナーバルを連れて行くのは一苦労。結果、彼等が出した結論というのは、ナーバルの服を掴んで引っ張って行く方法。ゴミのような扱いにナーバルは一段と暴れ出し抗議の声を上げるが、聞き入れる者は誰一人としていない。

 権力に固執した者の最後は、実に情けなく呆気ない。引っ張られていく間もナーバルの悲鳴と抗議が続き、引っ張っている者を困らせる。ナーバルはセインを「無用」と判断し一族からの追放と絶縁を行ったが、最後の最後で醜態を晒すなど根本的な部分はそっくりだった。

「……許せなかった」

「気持ちはわかる」

「そう言って貰えると、救われる」

「もし俺が剣を持っていたら、迷わず斬っていた。こいつは、それだけのことをし続けた……」

「……すまない」

「殿下……いや、フィルが謝らなくていい。フィル一人で頑張ったところで、どうこうできるものじゃない」

 恭しい態度と敬語が抜けたと思っていたが、ダレスはフィル王子を「殿下」と呼ばず、名前で呼んでいた。互いに共と認識していても、越えることのできない種族の差。それにダレスは二度と人間の世界で暮らさないと決めたので、フィル王子を名前で呼ぶことにした。

 ダレスに「殿下」と呼ばれたいわけではないが、名前で呼ばれたことにフィル王子は寂しさが込み上げて来る。これこそが明確な別れの証拠というべきものだが、フィル王子がダレスを引き留める権利を持っているわけではない。また、自分勝手に引き留めてもいけない。

「ただ、導かないといけない」

「……そうだな」

「この先、血を失ったことで人間の世界は荒れる。それ以上に、多くの人間の命が失われるだろう」

「血に頼り過ぎた結果、医療水準は著しく低下した。それの底上げが優先だが、記録があるか……」

「父さんに頼もうか?」

「いや、レグナス殿が許さない」

 友としてそれくらいしてやれなくもないが、フィル王子が言うようにレグナスがそれを許すかどうかわからない。また「干渉しない」と言った手前、彼等が救いの手を差し伸べることはしない。あくまでも傍観者の立場に立ち、人間が発展するか衰退するか見守り続ける。