そのように考えているからこそ、フィル王子はフィーナがダレスと結ばれることを祝福する。しかし素直に喜べないのが、現在の状況を受け入れないでいたナーバル。ダレスとフィル王子の話が逆鱗に触れたのか、物凄い形相を浮かべ殺気を放ちながら睨み付けてきた。
「貴様が……」
「彼等を恨むのは、お門違いだ」
「煩い!」
普段のナーバルであったらフィル王子に恭しい態度を取るのだが、今は思考がおかしな方向に働いてしまったのだろう、食い付き汚い言葉で罵り続ける。それはフィル王子だけではなくダレスやフィーナにも向け、まるで別人を見ているかのように変貌してしまっている。
「血の力を返せ」
「もう、失われた」
「いや、復活する」
「何!?」
「巫女を誑かしたお前を殺し、女神の御前に心臓を捧げる。そうすれば、女神が許してくれる」
「そのようなことをしても……」
神官が発したとは思えない発言に、ダレスとフィル王子の顔が引き攣る。また、フィーナはナーバルを見ていられなかったのだろう、反射的に視線を逸らしてしまう。この世の者ではない生き物に取り憑かれたと表現するべきか、ふらふらと立ち上がるとダレスに近寄る。
このような者は相手にしないのが一番だが、ナーバルの精神状態からして簡単に引き下がってくれるわけがない。それ以上に、フィーナに危害が行くのを恐れた。ダレスはフィーナを後方に下がらせると、ナーバルの前に立ちはだかり彼に向かいいつでも動けるようにする。
フィル王子もダレスの横に立ち、ナーバルの行動を凝視する。ナーバルが錯乱に近い状況に陥っていると判断したのだろう、いつでも抜刀できるように剣に手を掛けている。いざとなったら斬るつもりでいるのだろう、神官を斬るのは憚れるがこの場合は仕方がないと考える。
「お前がいなければ、権力を我が物にすることができた。血を自由に扱い、全てを統治する」
狂ったような声音で語られる本音に、ダレスは特に表情を変えることはなかったが、フィル王子は何とも表現し難い表情に変化していく。神官とはいえ人間だが、これほど中身は腐りきっていたとは――フィル王子は反射的に抜刀すると、切っ先をナーバルの喉元に向けた。


