早く。
早く血を流せ。
言葉として感情を表現しないが、彼等は態度と雰囲気でフィーナに圧力を掛け追い詰めていく。フィーナは短剣を持ち直すと、自身の腕に刃を這わし白い肌を傷付け血を体外に流す。
(痛い)
想像を絶する激痛に、フィーナの目元に大粒の涙が滲み出る。反射的に傷付けた箇所に合わせていた視線を逸らすと、流れ出る血が壷いっぱいになるのを待つ。流れ出る生暖かい液体は気持ち悪く、血液の独特の臭いが鼻腔を刺激し意識がクラクラしてくるが何とか平常心を保つ。
ポツポツ。
静寂が覆う空間に、水が滴る音が響く。この一滴一滴が癒しの象徴で、これが多くの者を救う。血を崇め血を尊ぶが、誰もフィーナが大粒の涙を流し採血をしていることを知らない。
その中の一人が、彼女の周囲で採血の光景を見守っている神官達。彼等は血の流し方が甘くなかなか壷がいっぱいにならないことを焦ったのか、フィーナにもっと血を流すことを要求する。
「で、でも……」
「このままでは、巫女様の体力を消耗します。ですので、一気に血を流した方が宜しいでしょう」
「で、ですが……」
「巫女様の為です」
「我々は、貴方様の身体を思っています」
「ですので、再度刃を――」
「呼吸するように、詭弁を言う奴等」神官達の言葉をダレスが聞いたら、このように表現しているだろう。現に彼等はフィーナの身体の心配をしておらず、早く癒しの血を欲している。
その姿はまるで、神官達は物語の中に登場する〈吸血鬼〉と呼ばれている血を啜る化け物のようだ。フィーナは彼等の提案に躊躇いの表情を作るが、そもそも彼女に拒否権は有しておらず彼等の言葉に従うしかない。フィーナは血で濡れる刃に視線を落とすと息を呑み、再度肌を傷付けた。
(……ダレス、助けて)
心の中で、自分の心情を一番理解してくれ側にいてくれる人物の名前を呼ぶ。無意識の中で彼に救いを求めるように視線を遠くに向けるが、重厚な扉が邪魔をして彼の存在を感じ取れない。扉一枚隔てて彼がいるというのに、その空しさがフィーナの心に影を落とした。


