新緑の癒し手


「ダレス!」

「と、父さん」

「髪の色が、戻ったか」

 レグナスの双眸に映ったのは、本来の髪の色を取り戻したダレスとフィーナ。人間達は血の力が完全に失われる前にフィーナを殺そうと考えていたが、今の彼女の血に癒しの力は存在しない。ダレスが言っていたように、フィーナは完全に普通の女の子に生まれ変わった。

「そうか。だから……か」

「中で何が?」

「像の表面に、罅が入った」

「まさか!?」

 衝撃的な事実に、ダレスは言葉を失う。血の涙を流しただけではなく、像の表面に罅まで入ってしまった。それを聞いていたフィーナはダレスの顔を凝視すると、自分が採血を嫌がって、巫女の役割を投げ捨ててしまったからいけないのか――と、震える声音で尋ねる。

 勿論、彼女に原因があるわけではないと、ダレスが優しく話す。そのようなことが原因だというのなら、女神から明確な合図があり、最悪フィーナ自身に影響が出ていただろう。それがないのだからフィーナに原因があるわけではなく、考えられる原因は多岐に渡っている。

「人間が、暴徒化している」

「厄介だ」

「血の力を狙っているようだ」

「まだ、力を――」

「ルキアの時と一緒だ」

「しかし、血の力は――」

「あいつらは、そのような言葉は通じない。今は、血の力を一滴でも多く搾り取ろうとしている」

「それはさせない」

「それは、同意見だ」

 妻に続いて息子の恋人まで手に掛けようとしている人間に、レグナスは憤慨する。血の力に固執したことによる結果だろう、彼等の行動は止まらない。刹那、空気を引き裂くような悲鳴が轟く。

 耳の奥底を刺激する彼等の悲鳴にダレスとレグナスは互いの顔を見合うと、その悲鳴の意味を瞬時に悟る。無数の罅が入っていた女神の像が砕け散ったのだろう、悲鳴に続き泣き声が続く。先程まで感じられていた殺伐とした雰囲気が消え去り、慟哭が立ち込めている。