新緑の癒し手


 依存過ぎた結果が、これか――

 フィーナの命を狙おうとしている神官や多くの民の姿に、フィル王子は表情が歪んでいく。また、茫然と立ち尽くし命令を受け付けなくなった兵士達の姿にフィル王子は苛立ちを覚えるが、だからといって彼等の気持ちもわからなくもないので、罵倒することはしない。

 レグナスは、状況の終息を図れないフィル王子の肩を叩くと「何をやっても無理だ」と、小声で囁く。この瞬間、長い時間を掛けて築き上げた物は、一瞬にして崩れ落ちる。それは外部からの攻撃によってのものではなく、内部――それも、人間達のエゴが影響している。

 無意識に、フィル王子の頬に涙が伝う。それは血が失われるからというわけではなく、民と神官の隠された本音を知ってしまった。人間は他の種族と違い明確な力を持っていないが、それ相応の知能を持っていると考えていた。しかし現実はこのようなもので、知能さえ乏しい。

 フィル王子は、国の平穏を願い国の発展に尽くしていた。それだというのに、彼等は正しい言葉を聞き入れてはくれない。王子として気丈に振る舞っていたが、自分の無力さに打ちのめされてしまったのか、握っていた剣が石の床に落ち乾いた音が部屋の中に響き渡る。

 先程までの覇気が、フィル王子から感じ取ることができない。信じていた者達の裏切りにあったフィル王子の姿にレグナスは居た堪れない表情を浮かべ、同情に近い瞳を向ける。その時、レグナスの耳に何かが砕ける音が耳に届く。それは一度だけではなく、二度三度――

 その音は、レグナス以外の者は気付いていない。「フィーナを殺害する」ということで頭がいっぱいになっているのだろう、大半の者がトランス状態に陥っている。どこから発生している音なのかとレグナス神経を研ぎ澄ませていると、女神の像の表面に細かい罅(ひび)が入っていることを知る。

 レグナスは罅のことをフィル王子に告げると、項垂れていた顔を上げ女神の像を凝視する。瞬時に、フィル王子の目が見開く。確かにレグナスが言ったように表面に罅が入っており、それが徐々に像全体に広がっている。その姿はまるで、蜘蛛の巣を被っているかのようだ。

「息子の様子を見て来る」

「私は――」

「暴徒を止めて欲しい」

 フィル王子を信頼しているからこそ、レグナスはそのように頼む。レグナスの頼みに力強く頷くと、消えかけていた覇気を取り戻す。フィル王子は床に落とした剣を拾うと、切っ先を暴徒化している民に向ける。その凛とした姿を一瞥すると、レグナスは建物の外に急いだ。