「やはり……」
「そう、思うか」
「それしか……」
とうとう、来るべきモノが来てしまった。
この先、人間はどうなってしまうのか。
混乱している思考を懸命に動かし、フィル王子はこれからの人間社会の在り様を考えていく。まず、女神が人間を見捨てたということを多くの民に包み隠さず伝えないといけない。それから治療の全てを血の力に頼っていたので、医療技術について見直さないといけない。
衝撃が大きすぎたのだろう、フィル王子の額に汗が滲みだしてくる。自分の保身しか考えていない神官と違い、現実を受け入れ過ちを認めているフィル王子にレグナスは「もっと早く会いたかった」と、言う。そうすれば多少種族間の問題の解決が早まっただろうが、後悔は先に立たない。
刹那、絹を引き裂いたかのような悲鳴が響き渡る。その悲鳴に誰もが響き渡った方向に視線を走らせ、訝しげな表情を作る。悲鳴が響き渡ったのは神殿の中で、それに続くように多くの人々の足跡が耳に届く。すると一人の巫女付き侍女が、血相をかいて此方にやって来る。
「大変です」
「どうした」
「め、女神様の像が……」
しかし、なかなかその先が話されない。今まで体験したことのない衝撃を味わったのか、侍女の顔は真っ青で唇が震えている。要領が掴めないナーバルは侍女を叱責しそうになるが、そのようなことをしてしまえば逆に怯えさせてしまう。ナーバルは珍しく優しい声音を掛けると、侍女を落ち着かせた。
「ゆっくりでいい」
「は、はい」
「で、何があった」
「女神様の像が、血の涙を……」
侍女の話に、ナーバルは目を見開く。記録の中に、女神の像が血の涙を流したという話は存在していない。これも女神が見捨て、血の力が失われたことが原因なのか。あらゆることを考えるが結論は出ず、それ以上に自身の心臓がけたたましく鳴り響いていることに気付く。
自分の目で確かめなければ、信じることができない。その思いが強く働いたのだろう、ナーバルは駆け出し神殿内へ向かうと、女神の像が祀られている部屋に急ぐ。その部屋は多くの人で溢れ、一部の者は茫然と立ち尽くし、また一部の者は大粒の涙を流し崩れ落ちていた。


