しかしイリージアは、フィーナの疑問に対しての回答を提供してくれることはない。女神の像は静かに微笑み多くの人に愛情を降り注いでいるが、巫女へ向けられる愛情は不明といっていい。
「巫女様」
感情が宿っていない瞳でイリージアの像を眺めていると、一人の神官がフィーナを呼んだ。彼の言葉にフィーナは振り返ると、神官が持つ物によって自分の役割を嫌でも思い出す。
神官が持つ物は一振りの短剣で、採血を行なう時に使用する物。瞳に短剣が映し出された瞬間、フィーナの心がざわめきだす。病人や怪我人を癒す為に血を与えるのは苦ではないが、短剣で身体を傷付けるのは慣れない。回数を重ねるごとに恐怖心が増し、身体が震えだす。
嫌と言えたら、どんなに楽か。
自身の感情を言葉として表した場合、癒しの血を待っている者を裏切ってしまう。それならダレスが側にいて採血を見守ってくれるのなら心強いが、それが許されるわけがないので諦める。
代々の巫女は、何を考えていたのか。
フィーナの心に湧き出るのは、巫女と呼ばれた女性の心情。ダレスの母親が先代の巫女であったが、彼が母親のことを事細かに語ることはしないので心情はわからない。だから、もし生きていたとしたらひとつだけ尋ねてみたかった。「採血は苦しくなかったのか」と――
「巫女様?」
「す、すみません」
「お早く」
物思いに耽っていたことにより、なかなか短剣を受け取ることはしなかった。その行為が「採血拒否」と受け取ったのか、神官達はフィーナに次々と言葉を掛けてくるが眼光が言葉と一致しない。
「早く採血しろ」と言いたいが神官という立場があるので、巫女への暴言は避けているが、早く短剣を受け取って欲しいのだろう、無理矢理フィーナに探検を握らせようとしていた。
これ以上受け取るのを渋っていると何が待っているのかわからないので、フィーナは震える手で短剣を受け取る。受け取ったことを確認した神官は別の神官に視線で合図を送ると、血を納める壷の用意をさせた。
その場でフィーナが両膝を付くと同時に、彼女の目の前に細かい細工が施された銀製の壷が置かれた。壷のサイズは一般的な水差し程度だが、フィーナの体格を考えると壷をいっぱいにするだけの血液を流すのは身体の負担が大きい。それでも神官達は「必要」と言い、強制する。


