新緑の癒し手


 声音の主は、兵士を従えたフィル王子。竜と神官が対峙している様子から一触即発の雰囲気を瞬時に察したのだろう、フィル王子は彼等の前に歩み出るとナーバルに鋭い双眸を向ける。王子の登場以前に自分を睨み付けられたことが納得できないのか、ナーバルが口を開く。

「殿下が、どうして……」

「竜の姿を見た」

「それは目の前の……」

「わかっている」

「では、我々を助けに……」

「助け?」

 自分達の保身しか考えていないナーバルの言動に、フィル王子の眉が微かに動く。そもそもフィル王子は神官達を助けに来たわけではなく、竜がどうして神殿にやって来たのか理由を知りたかった。いや、それ以上に緑柱石(エメラルド)の色を持つ竜が現れたことに気持ちが動いた。

 フィル王子は、ダレスがフィーナを連れ神殿を出て行ってしまったことを知っている。知っているからこそ、どのようなかたちであれダレスが戻って来てくれたことは嬉しく思う。フィル王子はナーバルを一瞥した後、ダレスとフィーナの前に向かうと柔和な表情を浮かべた。

「元気か?」

「……それなりに」

 ダレスに密着し離れようとしないフィーナの姿に、二人の関係が発展したことを察したのだろう、満足そうに頷く。王子の立場もあって二人の仲を認めていることを口にしなかったが、好意を抱いていながら種族間の問題で結ばれることのできない二人を不憫に思っていた。

 しかしこのように密着しているのだから、その心配をしないでいい。その証拠に、フィル王子が「仲がいい」と言った瞬間、フィーナの頬が微かに紅潮し、反射的に視線を逸らす。またフィル王子の顔を見ることができないのだろう、ダレスの外套を引っ張り顔を隠す。

「神殿にいた時と違う」

「敬語……抜けたな」

「俺は、もう……」

「そうか」

 曖昧な言い方であったが、ダレスが言いたい意味を悟る。いや、それ以上に多くの竜がやって来た時点で、何が起ころうとしているのか悟らないといけない。ダレスは父親に視線を向け合図を送るように頷くと、父親を紹介しだす。刹那、フィル王子の表情が強張った。