「そんなに、人間以外が嫌いか」
「嫌い……そんな生易しいものではない」
「理由は何だ」
「理由? そんなこともわからないのか。だからお前達は、無能って言われるのだ。何一つ、優れた部分はない。文化や文明、芸術に至って全て人間の方が勝っている。繁栄もしている」
「では、何故人間が優れている」
「女神に認められた」
「……それだけか」
この言葉によって、レグナスは人間が「女神」が相当の拠り所になっていることを知る。女神が血の力を与えたからによって増長し、自分達が生き物の中で一番偉いと勘違いする。しかしその拠り所になっている女神は愛想を尽かし、人間から血の力を奪い返そうとしていた。
血の力を与えられ慢心せず、施しの精神を持っていたら違っていたに違いない。また、巫女の心内も考えないといけなかった。巫女は自身の血で肉体と精神は癒すことはできず、日々疲弊していく。それを唯一癒すことができるのは、巫女自身が愛し愛される存在だろう。
ルキアがレグナスを愛したように、フィーナはダレスを愛した。それにより日々の採血の恐怖と激痛に耐え、多くの人間を癒し続けた。しかし、神官達は自分に都合がいいように動く相手を押し付けたいので、彼女達が愛した相手と結ばれることを頭ごなしに反対する。
「多くの民の感謝の言葉………それで十分ではないか。巫女様も、そのように思っていらっしゃる」
「……それ、前にも聞いた」
二人の会話を遮るかのように、ダレスが小声で囁く。息子の発言にレグナスはフッと鼻で笑うと、これについても昔から変わっていないと思う。それに感謝の言葉を言われたくらいで癒されるほど巫女の仕事は生易しいものではなく、フィーナを一瞥すれば身体が震えていた。
言葉で癒されるというのなら、フィーナがこのような反応を見せることはない。現にダレスが側にいたからこそ神殿で生活でき、立ち直ることができた。愛の力は偉大――というのは大袈裟な言い方になってしまうが、巫女に必要なのは感謝の言葉ではなく支えとなる人物。
それさえもわかろうとせず、巫女を道具としてしか見ていない。そのような人物が感謝の言葉と言うのだから、片腹痛い。嘘を嘘で塗り固める神官の言動に嫌気を差したのか、レグナスは肩を竦め嘆息した後口を開こうとするが、それを遮るかたちで別の声音が響き渡る。


