新緑の癒し手


「……貴様が」

 レグナスの正体を知ったナーバルは、この世の者とは思えない形相を浮かべ全身の毛が逆立つ。目の前にいる人物が先代の巫女を誑かし、一時的に血の力を消滅させた。記録に残された数々の非道にナーバルは、どのような面を下げて神殿にやって来たのか大声で尋ねる。

「相変わらず、煩い」

「何?」

「神官は、怒鳴るしか能がないのか」

「それは、貴様が……」

「先代の巫女ルキアのことか」

「わかっているではないか」

 彼等は「誑かした」と言い続けているが、二人は愛し合っていた。愛し合っていたからこそ、周囲の反対を押し切り共になることを選択した。そして女神はダレスとフィーナの愛を黙認したようにレグナスとルキアの愛も黙認していたのだが、私欲で動く神官が仲を引き裂いた。

 これこそ正しい真実というべきか、父親の話をダレスは冷静な面持ちで聞き続ける。フィーナは自分の身の上と重ね合わせているのか、ダレスの身体に顔を埋めていた。またナーバル以外の神官は記録と違う事実に混乱しているのか、周囲にいる者達と小声で語り合う。

「嘘だ」

「何故、そのように思う」

「記録が違う」

「記録など、書く者によって変化する。特に自分達に都合が悪い部分など、消去するだろう。あの時、女神はお前達を見捨てることはなかった。その証拠に、新しい巫女が誕生した。しかし――」

 本当に女神の御心を理解していないのは、神官達なのではないだろうか。巫女を一人の人間として扱い、個を尊重しなかったことがそもそもの原因なのではないか。また周囲を見下し、自分達が一番偉いと勘違いする。だから女神が人間を見捨てたと、ナーバルに向かい言い放つ。

「見捨てた……だと」

「力は、失われる」

「いい加減なことを言うな!」

 血の力が失われるなどとは、絶対にあってはならない。嘘偽りを言い、竜が人間を動揺させようとしている。動揺させ聖都を混乱させ、その間に何か仕出かすのではないか。竜は獰猛で凶暴だから、有り得なくない――とナーバルは妄想を語り、レグナスを呆れさせた。