村の者達は天を仰ぐと、願う。
彼等の無事を――
上空に出現した竜の群れに、聖都ディアンヌは騒然となる。多くの者が優雅に舞う竜に視線を合わせ、一体何が起こるのかと口々に話し合う。その中で誰かが口走った「竜が、攻撃を仕掛けて来る」という言葉が一気に伝染し、一部の者は聖都から逃げ出す準備をしている。
血相をかいて聖都を慌ただしく行き交いしている者達を他所に、冷静に身構えているのは娼館の女主人サニアと娼婦の者達。こうなることを薄々と理解していたのか、彼女達は喧々囂々(けんけんごうごう)としている者達を遠巻きで眺め、これから竜が神殿に向かって荒れるのではないかと読む。
「いいんじゃない」
「仕方ないわ」
「だって……ね」
「散々、罵倒していたもの」
「そう、いい気味よ」
「自業自得ね」
「やっぱり、攻撃するのかしら」
「すると思うわ。だって、彼等だってストレスが溜まっているでしょうし。やり方が悪かったわ」
娼婦の言葉は的確で、いくら女神を信仰しているとはいえ、神殿がどのようになってもいいと考える。自分達が信仰しているのは女神で、神官ではない。だから彼等が竜に殺されてもいいと衝撃的とも取れる言葉を言い放つが、横で耳を傾けているサニアは口を開かない。
ふと、一人の娼婦が天に向かって指差す。指示された方向にいたのは竜の群れで、一匹見慣れた色を持つ竜がいた。見間違えなければ、その竜の鱗は緑柱石(エメラルド)をしている。この鱗の色を持つのはダレス以外おらず、彼が久し振りに聖都に戻って来たことを彼女達は喜んだ。
「会いたいわ」
「フィーナ、元気かしら」
「もしかして、一緒になっていたりして」
和気藹々(わきあいあい)と語り合う娘達を一瞥すると、サニアは囁くような言葉で呟く。「決着ね」その意味深い言葉に彼女達は互いの顔を見合うと、それがどのような意味なのか尋ねる。また、想像してはいけないことを想像してしまったのか、先程の勢いが彼女達から消えていた。


