新緑の癒し手


 採血が行われる場所は、神殿の一番奥。その場所は神殿の中で特に神聖な空間で、女神イリージアの力を受け易いとされている。だから採血はこの場所で行わなければいけないというのが昔からの決まりとなっているが、ダレスに言わせれば「建前上の理由」となってしまう。

 本当に巫女を大事にしているのなら、巫女の身体を第一に考えなければいけない。しかし神官達は「癒しの血」を優先し、巫女の体調は二の次だ。彼等は口々に「巫女様」と呼び湛えるが、本心は違う。だから建前上の理由を作り、自分達の正当性を対外に示すのだった。

 採血が行われる部屋の前に到着すると、フィーナはダレスに縋るような瞳を向けるが、ダレスは彼女の心情に答えることはできない。採血が行われる部屋は、特定の人物以外入室禁止。そして、その「特定の人物」の中にダレスは含まれておらず、彼は外で待つという。

「ご無理をせずに」

「……はい」

 一緒に来て欲しいというのが彼女の本音だが、昔からの決まりごとを個人の我儘で改正できるものではない。フィーナは心細さを覚えるが、彼女は力無く頷くと自分の役割を果しに向かう。そしてフィーナが室内に消えると同時に重い扉が閉まり、外部の情報を遮断した。


◇◆◇◆◇◆


 女神の力を強く感じる空間なのにフィーナの心はざわめき、何か見えない物によって掻き回されている感じがして気分が落ち着かない。何度か訪れている場所なのだが雰囲気に慣れることはなく、できるものなら早く逃げ出したいのだが神官達がそれを許してはくれない。

 フィーナと共に室内にいるのは、高位の神官。その中にセインの父親のナーバルの姿もあり、彼は獲物を狙う獣のような瞳を彼女に向けていたが、不幸にして彼女は気付いていない。

 採血用に使用される部屋はそれほど広い部屋ではないが、特別に造られただけあって至る場所に施されている彫刻が繊細で、一流の職人が腕を競って造り上げたという感じであった。

 天井の高い位置に設置されて採光窓から温かい光が降り注ぎ、女神イリージアの像を照らし出す。フィーナが巫女になる以前、彼女は女神を敬い毎日のように祈りを捧げていた。だが、巫女と呼ばれるようになった今、女神の像を別の目で見てしまう。そして「何故、自分が」という疑問が身体の奥底まで支配し、女神から自分を巫女として選んだ理由を聞きたかった。