また、ダレスの方も話に集中しているのでフィーナの存在に気付いていないらしく、父親と話を続けている。何か話し掛けるべきかと迷うが、早朝の出来事があるので気が引ける。躊躇いの中フィーナは足早にその場から立ち去ると、真っ直ぐ家に帰宅することにした。
帰宅と同時に、フィーナは昼食の支度を行う。今日は何を作ろうかと考えていると、ダレスが昼食を取りに戻って来るのか考えるが、現在の状況では判断は難しい。雰囲気的に戻って来ない可能性が高いが、フィーナはダレスの分の昼食も作ると、暫くダレスの帰宅を待つ。
しかし――
ダレスは、戻って来なかった。
きっと仕事が忙しかったのだろうと自分自身に言い聞かせるが、気分を落ち着かせるには十分な効果はなかった。ダレスに、嫌われてしまったのか――思考は悪い方向に働き、心が締め付けられる。彼女にとって唯一の拠り所になっているダレスの拒絶は、身を引き裂かれるに等しかった。
きっと、何か――
それでも何かあったのだろうと、フィーナはダレスを信じることにする。神殿にいる時から自分を支えてくれ、恐怖から救い出してくれた。それに、フィーナはダレスを愛し――ふと、その考えに身体が過敏に反応を示す。この相手は、互いに繋がり合っているものなのか。
フィーナはダレスに愛していると言ったが、ダレスはフィーナに愛の言葉を囁いてはいない。故郷の村に戻った今、誰か特定の異性に好意を持ちその人物を愛しているのか。不安は別の不安を生み出しフィーナの身体が小刻みに震え出すが、これは妄想で真実ではない。
(ダレスは……)
もしこの考えが正しいものであったら、フィーナはダレスの前から姿を消さないといけない。愛しているからこそ相手の幸せを願い、縛り付けてはいけない。それに相手を困らせる我儘を言うほど、フィーナは自分勝手ではない。我儘――その二文字に、ヘルバの言葉を思い出す。
「与えられることが当たり前と思い、自分が何かを与えることを忘れてはいけない」確かにヘルバに言われたように、ダレスにあれこれとして貰っている。無意識の中で「自分は巫女だから」という驕りが生まれてしまっていたのだろう、過去の行為を振り返り反省する。
ダレスに、謝らないといけない。それで彼が何と言うかわからないが、そうしないといえない。また、全てを受け入れる覚悟もあった。フィーナはダレスのもとへ行こうと家から飛び出そうとした瞬間、偶然というか間が悪いというか、織物仲間がお見舞いの品を持ち訪ねてくる。


