そして――
何物にも縛られない生活が送れ、フィーナが望めばどのようなこともできる。彼女にこの先も一緒に暮らして欲しいと言ったら、喜んでくれるのだろうか。愛の言葉を囁いてはいないが、ダレスはフィーナに好意を抱いている。抱いているからこそ、側にいて欲しいと望む。
だけど彼女に、そのことを強制するつもりはない。ヘルバがこれを耳にしたら「優しさ」とは言わず「優柔不断」とキッパリと言い、クドクドと注意を促しているに違いない。ダレスはどうしたらいいかわからない状況に心がさわつき、募りに募るのはフィーナへの想い。
考えれば考えるほど思考が混乱し、正しい答えが導き出せない。ダレスは温泉で顔を洗い混乱する思考をスッキリさせようとするが、これくらいでスッキリさせられるほど簡単なものではない。本来温泉は疲れを癒すものだが、今日は浸かれば浸かるほど疲れてしまう。
激しい疲労感を覚えるダレスは温泉から出ると、脱衣所で濡れた身体を拭き服に着替える。家に戻り寝室に立ち入ると、規則正しい寝息をたて眠っているフィーナの姿を目撃する。別の村へ行ったことにより疲れてしまったのだろう、いつもダレスの後に入浴するのだが今日は先に入浴した。
ダレスは寝台に腰掛けると、自分がいなくても一人で眠れるだけ精神が癒されたことに気付く。それでもまだ寂しさが残っているのだろう、フィーナはダレスが使用している枕を抱き締めていた。弱弱しい姿を見せるフィーナの髪を優しく撫でると、微かな刺激に目を覚ます。
「……ダレス」
「起こしたか」
「……大丈夫」
フィーナはダレスが来てくれたことが嬉しいのだろう、頬を緩ませながら彼の服を掴んで離そうとはしない。またダレスもフィーナの手を振り解くことはせず、寝台に腰掛けながら彼女と話を続ける。口を開き話題としたのは、互いの肉体に流れる巫女の血について――
最初は話すことに躊躇いを抱いていたが、髪の色が変化し動揺を覚える前にきちんと受け入れた方がいい。そう判断したからこそ、ダレスは一定の声音で淡々とフィーナに話していく。血の力が弱まっていると聞き動揺を隠せないでいたが、フィーナは安堵感の方が強い。
ダレスの話を最後まで聞いた後、フィーナが恐る恐る口を開く。彼女が発した言葉というのは、普通の女の子として暮らしていいかというもの。彼女の疑問にダレスは頷き返すと、血の力が消失すれば巫女ではなくなる。だから自身が望む、自由に生きていいと伝えた。


