一方、ダレスもまさかフィーナがこんなに早く温泉にやって来るとは思っていなかったのだろう、身体が硬直し彼女の顔を凝視してしまう。すると時間の経過と共に停止していた思考が動き出してきたのだろう、フィーナはダレスの姿に顔が熱くなっていくのに気付く。
日頃から鍛えていると聞いていたが、まさかこれほど逞しい肉体だったとは――ダレスの身体は贅肉が殆んど付いていない引き締まった肉体で、筋肉質といっていい。これは竜と人間の血を半分ずつ引いているからだろうか、身長と共に四肢が長い理想的な体型の異性は女性の憧れ。
村の女達の話に上がっていた人物が、こんなに身近にいたとはフィーナは動揺し心臓が激しく鼓動しだす。フィーナが自分の姿に視線を合わしていることに気付いたダレスは、籠の中に入れてあった服を慌てて着だす。彼の必死な行動にフィーナは自分が何をしていたのか瞬時に理解したのだろう、反射的に視線を逸らすと何とも気まずい空気の中で過ごす。
「外で……」
「あ、ああ」
「着替えたら……」
「教える」
「……うん」
「ご、御免」
互いに、短い会話が交わされる。それだけ言い合うとフィーナは逃げるように、更衣室から飛び出る。フィーナの慌しい行動にダレスは動揺を隠し切れず、珍しく焦っていた。もっと遅い時刻にやって来ると思っていたので、ゆっくりと温泉に浸かっていたが、思った以上に早くやって来た。
結果、フィーナの前で全裸を披露してしまう。この状況にダレスは毒付くと、自身の肉体に変化がないか確かめる。感情の起伏というわけではないが動揺が肉体に著しく影響を与えるのはわかっていたので、落ち着くようにと自分自身に言い聞かせ、気持ちを落ち着かす。
いつもであったら、感情の起伏の影響で肌の表面に竜の鱗が浮き上がり、身体の一部分が変貌している。それだというのに身体が変貌せず、人間の形を保ち続けていた。何故、どうして――変貌しない自身の肉体に本来であったら喜びを感じるが、強い違和感を覚える。
(まさか)
本当に、血の影響がなくなったというのか。これは竜の血というより、巫女の血そのものに異常が出たと考えるのが正しい。髪を引き抜くと、まじまじと髪を観察しだす。普段は緑柱石(エメラルド)の色をしているが、どちらかといえば竜本来の髪色である黒に近付いていた。


