新緑の癒し手


 ダレスの取り繕いは嬉しいが、フィーナはそれ以上に羞恥心の方が強かった。そのように本音を言ってくれるということは、自分が作る料理が美味しいという証拠。好意を抱いている相手の本音にフィーナの頬が一気に赤面し、それだけ彼女にとって刺激的な言葉だった。

 フィーナは頬を赤らめながら、野菜スープを食していく。その初々しくも可愛らしい態度に、ダレスの心がざわめきだす。フィーナは自分に対し好意を抱いていると、言葉として明確に表してくれた。それだというのにダレスは、彼女に自分の気持ちを伝えてはいない。

 勿論、嫌いじゃない。

 だけど――

 いまだに、躊躇いが続く。

 心の中に広がっていく、何とも表現し難い感覚。その感覚の意味は理解しているが、やはり言葉に出すことはできない。ダレスはスプーンを握り直すと、フィーナと同じように野菜スープを啜る。村に訪れた頃より確実に上手くなっている料理に、彼女の努力が窺えた。

 このまま、ずっと――

 やはり、言葉には出さない。

 食事後、フィーナは機織の仕事を再開する。ダレスは彼女の代わりに食器を片付け、身体の疲れを取る為に再び暫しの睡眠を貪ることにした。彼の睡眠時間は一時間程度で、その後は父親の仕事を手伝いに向かう。それぞれが互いの仕事に従事し、一日が過ぎていくのだった。


◇◆◇◆◇◆


 村の者や多くの生き物達が寝静まった時刻、フィーナは温泉に向かって村の中を歩いていた。村に訪れた頃はこのように一人で歩くことに恐怖心を抱いていたが、彼等の優しさに触れ、また好意的に接してくれることがわかっているからだろう、このように一人で出歩けるまで回復した。

 しかし、まだ村の者と一緒に温泉に浸かることに躊躇いがあるのだろう、フィーナはいつも遅い時刻に入浴している。現在、先にダレスが入浴しているが、温泉に向かってそれなりの時間が経過しているので、もうダレスは入浴を終えているのだろうフィーナは考える。

 脱衣所に到着すると靴を脱ぎ、特に中を確認することなく立ち入る。刹那、フィーナはか細い悲鳴を上げると身体が石のように硬直し、思考が停止し頭が真っ白になってしまう。何と脱衣所にいたのはダレスで、それも温泉から出たばかりだったので着替えている途中だった。