新緑の癒し手


「人間側は、大慌てだな」

「今まで、血に頼ってきました。それがなくなったのですから……医者の力など、限られています」

「そうだな。ところで、敬語は止めないか。数十年ぶりの再会とはいえ、そのように恭しくされると心苦しい」

 相手が父親とわかっていても、ついつい敬語を使用してしまう。長い年月神殿で暮らし敬語を使い続けてきた影響なのか、このように指摘されても上手く砕けた口調を使うことができない。喋り方に戸惑っている息子にレグナスは苦笑すると、どのような切っ掛けであれ帰宅を喜ぶ。

「……ただいま」

「暫く、留まるのか?」

「彼女次第」

「その後は?」

「神殿には……戻れない。いい思い出より悪い思い出の方が多くて……何より、彼女が拒絶する」

「戻ったところで、今まで以上に厳しい監視になるだろう。神官とは、そういう連中だからな。それなら、暮らす場所が必要だな。生憎、この家にもう一人住まわす余裕はない。幸い、村の奥に空き家がある。そこを使うといい。二人で暮らすには、十分の大きさの建物だ」

 ダレスは「二人で」という部分に引っ掛かったのか、思わず父親にフィーナと一緒にひとつ屋根の下で暮らすのか尋ねてしまう。勿論、レグナスはそれを前提として空き家を提供するのであって、自分よりダレスが側にいた方が精神的に安定できるのではないかと話す。

「確かに……」

「それに慣れない村の生活、見知った者の方が心強い。いくら心に傷を負っているとはいえ、特別扱いは長くできない」

「人間?」

「そうだ。我々、竜の一族は人間を忌み嫌っている者が多い。その中に溶け込むには、それ相応の努力をしないといけない。今回の件で、同情はしてくれる。しかし、あの娘は巫女だ。同情はいつか別の感情に変化し、傷付けられるかもしれない。だから、溶け込むよう努力をしないといけない。何か、得意なものはあるのか? あれば、その仕事を頼みたい」

 しかしダレスは、フィーナが何を得意としているか知らない。それ以前に、生まれ育った村でどのような生活をしていたのかも聞いていないので、明確に何が得意なのかわからなかった。唯一、菓子作りが好きだということがわかっていたので、それが得意なのではないかと話す。