確かに、父親が「愛情」に拘る理由はわからなくもない。相手は多くの民から尊敬と敬愛を受ける癒しの巫女で、己の欲望のままに押し倒していい人物ではない。しかし娼婦相手に宜しくやっているセインにとって、互いの間に愛情が成立するまで我慢するのは辛過ぎる。
だからといって成立する前に押し倒し巫女の処女を奪った場合、父親から勘当されるのは間違いない。また見習いの地位を剥奪された後、神殿から追い出される。尚且つ、民から集中砲火を浴びるだろう。
自身に訪れる最悪な結末を脳内で弾き出したセインは、今回は父親の意見に従うのが利口と判断する。息子が今回素直に意見に従っていることに違和感を覚えるが、計画を進める上では素直な方がいい。それに下手に我儘を言われる方が厄介で、他の賛同を得られない。
息子を巻き込んでの計画に、ナーバルは心の中でほくそ笑む。彼は今、自身の地位に満足せず更に高い地位を望んでいた。そして最終的には、全ての神官の頂点に立ちたいと考えていた。だから今回の計画は何が何でも成功を望み、息子を最大限に利用してやろうと計画を練る。
そう考えると、何も知らないセインは幸せ者。
今、計画が進められる。
どす黒い感情を加えて――
◇◆◇◆◇◆
娼館から戻って来たダレスは自室に篭り、母親が残した本を読んでいた。彼が読んでいる本のジャンルはファンタジーで、俗に言う冒険小説というもの。ダレスの母親ルキアは恋愛小説より冒険小説を好んで読んでいたので、このジャンルの本を大量に残し亡くなった。
それら全てを遺品として受け取ったダレスは、時間を見付けては母親が好んだ本を読み耽る。それも何度も繰り返し読んでいるので、内容は覚えてしまった。ふと、部屋の扉が控え目に叩かれる。その音にダレスは読んでいた本を閉じるとテーブルの上に置き、扉を叩く者に声を掛けた。
「……私です」
「フィーナ様」
「宜しい……ですか」
どのような理由でフィーナがダレスの自室へ訪れたのかわからないが、彼は腰掛けていた椅子から立ち上がると扉の側へ行き開く。廊下に佇んでいるのは、間違いなくフィーナ。突然の彼女の登場に対応に困るダレスだが、このままの状況では話し辛いので部屋の中に通す。


