新緑の癒し手


「部屋を用意した」

「部屋?」

「お前が使うはずだった部屋だ」

「ああ、二階の……」

「そうだ。その部屋を使わすといい。普段は物置として使用しているから、多少は汚いが……」

 たとえ用意してくれた部屋が本当に物置であったとしても、フィーナにしてみれば関係なかった。それどころか、それで十分だった。雨風を凌げる場所で横になることができれば、身体を休め体力の回復を図れる。だからレグナスに汚い部屋でも構わないと、言葉を返す。

 しかしフィーナがその部屋を使用すると、ダレスが寝る場所がなくなってしまう。そのことを知ったフィーナはそれについて尋ねると、ダレスは床で横になればいいので構わないと話す。だが、床は固いので確実に身体を痛めてしまう。それに、熟睡もままならないだろう。

 自分が寝台を利用することによって、ダレス固い床で寝させる嵌めになってしまう。だからといって、異性であるダレスとひとつの寝台で一緒に寝るわけにもいかないので、結局のところ身体を鍛え体力に自信があるダレスが床で寝ることが、最善の選択といっていい。

 また、女性の肌は柔なのですぐに傷が付き残ってしまう。その点を考慮してのダレスの気遣いに、彼等のやり取りを横で見ていたレグナスの眉が微かに動く。また、何か思うことがあるのだろう、顔色が優れない。それでも自身の変化を息子に気付かれまいと、冷静さを保ち続ける。

「場所は、わかるな」

「……はい」

「なら、休ませるといい。今日は、もう遅い」

 父親の言葉に頷くと、ダレスはフィーナを連れ二階へ上がる。そして物置として使用されている部屋に入ると、そっとフィーナを寝台の上に乗せ、靴は明日用意すると言葉を掛ける。ダレスはそれだけを言い残し立ち去ろうとしたが、急に服を掴まれ行動を制されてしまう。

「どうした?」

「……怖い」

「大丈夫。人間はいない」

 勿論、それは温泉で何度も自分に言い聞かせていたのでわかっていたが、そう簡単に恐怖心が拭えるものではなく、怖いものは怖い。フィーナが微かに身体を震わせていることに気付いたダレスは、優しく彼女の身体を抱き締めると、小さい子供をあやすように安心していいと言い続ける。