新緑の癒し手


 白濁の湯に浮かんでいるのは、自身の緑柱石(エメラルド)の髪。この髪色の影響で運命は大きく変化し、人間のいい面と悪い面を知る。特に神官の二面性に驚かされ、この世界を取り巻く内情も学習した。そして本当に信頼できる人物に出会い交流を深め、特定の人物に愛情を抱く。

 全ては、女神の計らい?

 そう疑問視するが、フィーナは女神の計らいであったとしてもその計らい自体を拒絶する。なにゆえ、これほどまでに不幸にならないといけないのか。女神が目をかけているのは、神官なのではないのか。本当に慈悲深い存在というのなら、血の力などいらない。そう、心の中で叫ぶ。

 それは女神の冒涜へ繋がることは十分に承知していたが、人間の心を毒し歪めている力など存在しない方がいい。そして血の無い世界で他者と真正面から向き合い生きていくこそが、人間にとって重要なことではないのか。これこそが、神殿での生活で学んだことであった。

 その後、ダレスとフィーナは会話を交わすことはしなかった。フィーナはただ肩まで湯に浸かり、冷え切った身体を温める。入浴の途中で、ダレスが父親と何やら会話をしていることに気付くが、途切れ途切れしか耳に届かなかったので何を話しているのかわからない。

 自分のこと。

 他人のこと。

 二人が交わす会話の内容に言い知れぬ不安感を覚えたフィーナは湯から上がると、脱衣所に向かう。すると床の上に、綺麗に畳まれた数枚のタオルと見慣れない服が置かれているのに気付く。フィーナは最初にタオルを手に取ると、身体と大量に水分を含んだ髪を拭く。

 一通り髪と身体を拭くと、用意してくれた服を目の前で開く。その服は白に近い黄色の生地で作られた上下が一体となっている服で、襟元と袖口に刺繍が施されていた。生地は厚めであったがそれを感じさせないほど軽く、このような物は人間の世界では売買されていない。

 それに肌触りがよく、最高級の生地を使用して作られたかのような服に、フィーナはこのような素晴らしい物を用意してくれたレグナスに感謝の言葉を言おうと建物の外に顔を覗かせるが、ダレス以外誰もいない。そのことに残念そうな表情を浮かべていると、ダレスが声を掛けてくる。

「出たのか」

 彼の言葉に、フィーナは頷き返す。彼女の返事にダレスも同じように頷き返すと、建物の中に立ち入り床に置かれている外套とタオルを手に取る。そしてタオルをフィーナの頭の上に被せるとまだ水分が残っている髪を丁寧に拭き、これでは風邪をひいてしまうと言う。