だから、忘れたい。
こんなことなど、早く――
だからこそ、懸命に身体を洗う。
がむしゃらに身体を洗い続けた結果、白い肌が赤く変化し皮膚が剥けそうになってしまう。それだけになるまで洗ったというのに不快感が消えることはなく、得体の知れないねっとりとしたモノが纏わり続ける。フィーナは硬く目を閉じると何を思ったのか温泉に潜り、自分自身の身体を抱く。
この場所は、竜の村。
あいつはいない。
側にいるのは、ダレス。
何度も何度も心の中で呟き、今は安全だと自分に言い聞かせる。しかしそれを行っても安心感が湧き出してくることはなく、それどころか不安感の方が強くなっていく。息が続かなくなったフィーナは顔を上げると、新鮮な空気を吸い込む。そして天を仰ぐと、満天の星空を眺めた。
宝石を撒き散らしたかのような、キラキラと瞬く星は美しかった。美しいモノには美しいと思える感情は働くらしく、フィーナは自分の口許が微かに緩んでいることがわかる。ふとその時、誰かが自分の名前を呼んでいることに気付くと、声音が響く方向に視線を向けた。
「ダレス?」
「温泉は、どうだ?」
「温かくて、気持ちがいい」
「良かった」
「……ダレスのお父さんって、優しい。だって、こんな私を受け入れてくれ……色々と……」
「フィーナは、今回……いや、それはいい。ところで、靴の大きさは? 服だけじゃなく靴も用意しないといけない」
「私の足は、小さいから」
「わかった、用意しておく」
「有難う」
心に傷を負っている者を必死に癒してやろうと、ダレスは気を配ってくれる。一方、フィーナは与えられているものを受け取っているだけで、それに対し何かを返すことはできない。
だが、今の状況で何かを返すことはできず、彼から与えられ続けているしかない。それについてダレスは何も言わず、ただ彼にしてみれば早く負った傷を癒して欲しいというのが願い。だからこそ無条件で深く大きい愛情を与え続け、フィーナの身も心も包み込んでくれた。


