新緑の癒し手


 フィーナを心配する父親の親身な心にダレスは返事を返すと、フィーナを山の麓で湧き出している温泉へ連れて行くことにした。二人が立ち去った後、レグナスは過去を忘れ難い状況を思い出したのか、表情が優れない。だが、それを振り払うように頭を振ると、約束を果しに向かった。





「温泉って……」

「知らない?」

「知っているわ。だって、ダレスが講義で教えてくれたもの。確か「温かい水が、地中から湧き出している」だったかしら」

「正解」

「一度、見てみたかったの」

「それは良かった」

「ねえ、ダレス」

「うん?」

「……助けに来てくれて、有難う」

 あの時、ダレスが来ていなければフィーナはセインに全てを奪われていた。そして彼が満足するまで侮辱し続けられ、精神が砕けていた。フィーナにとってセインは身の毛もよだつ気持ち悪い対象で、異性として――というより、同じ人間として見ることができなかった。

 全てを奪われなかったとはいえ心に負った傷は深く、ましてや侮辱される寸前をダレスに目撃されてしまった。それについてはフィーナに気を使って何も言わないが、彼女はダレスがどのように思っているのか気になってしまう。それでも、彼の本音が怖いので聞くに聞けない。

 フィーナはダレスに抱きつく腕に力を込めると、ギュッと服を掴む。本当はこのようなことは綺麗サッパリと忘れてしまった方が彼女の今後の為になるのだが、異性の侮辱は女にとって忘れがたいトラウマと化す。これが癒えるのはいつになるのか――それは本人さえわからない。

「到着」

「温かい」

「温泉が近い」

「これが、ダレスが話していた……」

 ダレスの言葉に促され、フィーナは視線を湯気が立ち上っている方向に向ける。彼女が持つ温泉の知識は書物で得た程度なので、実際に地中から湧き出している現場を目撃すると感動を覚える。まさに、自然の神秘というべきものか――フィーナはちょっと心が擽られた。