新緑の癒し手


「風邪は、大丈夫」

「それならいいが。だが、寒いことには代わらない。早く村へ入ろう。父のところへ行けば、何とかしてくれる」

「ダレスのお父さんって……」

「族長をしている」

「怖い方?」

「人間には厳しい。だけど、フィーナなら……」

 妻と同じ巫女であるフィーナなら、受け入れてくれるのではないだろうか。そのような淡い期待を持ちながら、ダレスはフィーナを竜の村に連れて来た。また、ヘルバに頼んで有翼人の村に匿って貰うという方法もないわけではないが、彼女の心情を思うと此方が正解。

 ダレスはフィーナを抱きかかえながら、村の中へ立ち入る。長い年月神殿で生活していたので、久し振りというより懐かしい感覚の方が強い。過去に何度かしか訪れていないので記憶が曖昧かと思われたが、建ち並ぶ建物の位置は変化していないので真っ直ぐ父親の家を目指せた。

 時間が時間ということもあって、村の中では誰一人としてすれ違うことなく一番奥に存在する父親の家に到着することができた。幸い、まだ起きているらしく窓から明かりが漏れている。ダレスは両手が使えない自分に代わってフィーナに扉を叩かせると、反応を待つ。

 相手から反応は、意外にも早かった。しかし夜分の突然の訪問に機嫌が悪いのか、対応する声音は低い。音を鳴らし、扉が開かれる――すると、父親と息子の視線が合う。全く予想していない人物の訪問に言葉が見付からないのか、レグナスは呆然と立ち尽くしていた。

 レグナスの外見年齢は四十後半だが、ダレスと違い正真正銘の純血の竜なので外見年齢と正確な年齢は一致しない。また術を施し人間の外見を保っているとはいえ、全ての面で人間の外見を模しているわけではなく、一部分は竜としての姿を覗かせ、特に角と爬虫類の双眸が目立つ。

 息子の登場に当初は驚いていたレグナスだが、瞬時にいつもの族長としての風格を取り戻し、息子と接する。ダレスは父親を苦手としているわけではないが、眼光の鋭さに父親の機嫌が優れていないことに気付く。それでもフィーナの為と、歯切れの悪い言い方で挨拶する。

「お久し振り……です」

 目の前にいる相手は自分の父親だというのに、ダレスは何処か余所余所しい態度を取り敬語を使ってしまう。十数年振りの帰宅に戸惑いがないわけではなく、それに事前に帰宅するとヘルバを通して言っていなかった手前、何とも表現し難い重い空気が親子の間に漂う。