「ち、父親に勘当された」
「自業自得だ」
「だから……巫女を妻として迎えることができれば、夫の地位を……そうすれば、誰も逆らえなく……父親は勘当を撤回してくれ、再び認めてくれる。それに、夫が決まれば安泰だ」
「そのような理由で、お前は……」
「ど、同意すれば……」
「優しくしたというのか?」
「同意なんて、しないわ」
彼等の会話を遮るように、フィーナの悲鳴に近い声音が響く。誰も、好意を抱いていない相手に抱かれることを同意するわけがない。ましてや嫌らしい目を向けてきた相手に、心を開けるわけがない。彼女の必死の訴えにダレスは呆れたように肩を竦めると、力任せに踏み締めた。
最大級の衝撃に、セインは声にならない悲鳴を上げると胃袋の中に詰まっていた物が逆流しだす。しかし彼が吐き出したのは消化されつつある食べ物ではなく、大量の胃液。そして今の一撃が止めとなったのか、白目の剥き出しにしながらセインは胃液塗れで気絶した。
無様といいようがない姿で意識を昇天させてしまったセインには用がないとばかりに足を退けると、ダレスは踵を返しフィーナに視線を向ける。何か言葉を掛けないといけないが、現在の状況と彼女が受けた仕打ちを思えば、適当な言葉は彼女の心を更に傷付けてしまう。
何か、いい言葉は――
どう、振る舞えばいいか。
そう考えていると、神殿内が騒がしいことに気付く。突然の竜の登場にはじまり、硝子を割る音と複数の悲鳴。神殿内で起こっている不穏な事件の数々の把握に神官達が躍起になっているのは間違いなく、うかうかしているとこの部屋に神官がなだれ込んでくるだろう。
彼等がやって来れば主犯のセインは確実に捕獲されるが、同等にダレスも捕まってしまう。その後、セインに押し倒され心に深い傷を負ったフィーナのケアを行なうかどうか怪しく、寧ろ心が壊れてしまった方が採血がスムーズに行うことができると喜ぶかもしれない。
なら、方法はひとつ。
だが、その方法を提案する前にフィーナが口を開く。「こんな場所にはいたくない。何処か、別の場所へ行きたい」彼女にとって神殿はいい思い出の場所ではなく、自由を束縛しあらゆる物を奪い取る恐怖の場所。だからダレスに、神官がいない場所に連れて行って欲しいと懇願する。


