止まることなくボトボトと落ちる血を止めようと鼻を摘もうとするが、手痛い一撃で鼻がおかしな方向に曲がっていることに気付く。自身の陰茎と共に整った顔立ちに自信を持っていたセインにとって、鼻の骨折は予想外――というか、これ以上のショックはなかった。
「き、貴様……」
流石に馬鹿な発言を行い空気が読めないセインであっても、現在の状況では自分が圧倒的に不利だということは、本能で察することができた。まさにこの世のものとは思えないほどの威圧感に、以前フィル王子に切っ先を突き付けられた時以上の危うさを嫌でも感じ言葉を封じる。
ダレスの登場にフィーナの心の中に明るい何かが灯るが、しかし先程の出来事があるので喜びはすぐに冷たい感情によって押し流されてしまう。その時、フィーナの身体に温かい物が舞い降りた。
反射的にその物体を掴むと、それがどのような物か確認する。舞い降りた物の正体がわかるとフィーナは微かに顔を緩め、それで身体を覆う。それは先程までダレスが纏っていた外套で、心地いい温かさに凍り付いた心が溶け出し、温かいモノが幾重にも頬を流れ落ちる。
このような状況に置かれていても、ダレスの優しさは変わることがない。それを確信できたのか、フィーナは泣くのを止めた。多少なりとも彼女が落ち着きを取り戻してくれたことにダレスは意味有りげな笑い方をすると、呻き声を発しながら蹲っているセインを見下す。
「おい」
低音の声音を発すると同時にダレスはセインを蹴り、仰向けの状態にする。更にその状態で腹の上に足を置くと、徐々に力を加えながらフィーナを襲った理由を明確に答えるように威す。しかし恐怖心で完全にパニックに陥っているセインが、明確に答えられるわけがない。
なかなか答えようとしないセインに苛立ちを覚えたのか、ダレスは腹の上に置いてある足に力を込めながら左右に動かす。ちょうど足が置かれている部分が胃袋の真上だったのだろう、激しい腹痛にセインは苦痛を秘めた間延びした声を上げながら四肢をバタつかせる。
「み、巫女を……」
「一体、どうしたいのだ?」
「つ、妻とし……」
セインが発した「妻」という単語に過敏に反応したのか、足の裏に無意識に力が入ってしまう。胃袋が押し潰される感覚に嘔吐感を覚えるが何とか気合で乗り切ると、ダレスが放つ凄まじいまでの圧力に必死に耐えながら、涙混じりに自分が仕出かした意味を語っていく。


