「放して!」
「駄目! 逃がさない」
「貴方なんて、嫌い!」
セインを睨み付けるようにして発したのは、明確な拒絶の意思。まさかそのようなことを言われるとは思わなかったセインは鳩が豆鉄砲を食らったような表情を見せるが、徐々に秘めていた怒りが込み上げてきたのだろう先程とは違い憎しみたっぷりの表情をフィーナに向ける。
「何故、そのように言う。これからたっぷりと愛してあげるというのに、どうして拒絶する」
「好きでもない人に、愛されたくない」
「これから、好きになるさ」
「貴方なんて、好きになるわけがない」
「それは嘘だね」
自分に都合よく物事を解釈し他者を見下す者を、誰が好きになるというのか。フィーナは身動ぎしながら彼を受け入れない気持ちを態度と言葉で示していくが、その必死の抵抗がセインをますます興奮させていくのだろう、きつくフィーナの身体を抱き締め離そうとしない。
「離して!」
セインの行動のひとつひとつに、フィーナは鳥肌が立つ思いがする。同時に早くこの場から逃げ出したいという思いが強く働いたのだろう、フィーナは反射的に自分が好意を抱いている人物の名前を呼び救いを求めるが、それによりセインの感情を更に刺激してしまう。
「あいつがいいのか?」
「貴方より、立派よ」
「あんな、汚らわしい血を引いた奴のどこがいいというのだ。私は、名門一族の者だ。あんな奴より気品があり立派で、将来を有望されている。それだというのに、どうしてあいつを……」
「そういうところが、嫌なの!」
自分が父親や一族から見捨てられたことを完全に忘れてしまっているのか、いまだに名門一族に名前を連ねていると言い放つ。しかし自分自身の実力ではないものを言い放ってもフィーナの心に響くわけがなく、それどころかますますセインの惨めな一面を強調していく。
フィーナはセインが持つ高い欲望の他に、自分自身で己を磨こうとしない愚かな部分が嫌いであった。ダレスは敵が多い中でも自分自身を磨き続け、高い知能と剣の腕前を習得した。そのような人物を平気で見下すセインに抱くのは激しい嫌悪感だけで、フィーナの抵抗は続く。


