不穏な気配と不気味な笑い声に、部屋の中で休んでいたフィーナは反射的に視線を相手に合わす。刹那、恐怖心を抱いているセインの登場に、全身が小刻みに震えだし顔から血の気が引いていく。それ以上に、人間とは思えない笑い方をしていることに背筋が凍り付く。
「あ、貴方は……」
「ご機嫌麗しゅう、巫女様。貴女にどうしても会いたくて、このような時間に訪ねて来ました」
「こ、来ないで」
震える声音で拒絶しようが、セインの耳に届くことはない。それどころか彼女の拒絶を無視するように、一歩一歩と距離を縮めていく。フィーナは何故セインが自分の前に現れたのか知らないが、彼が纏っている雰囲気は尋常ではない“何か”を彼女に伝え、捕まってはいけないと本能が教える。
それに裏返った甲高いセインの声音は、明らかにいつもの彼の声音とは異なる。この状況から逃れるには部屋から逃げ出すのが一番だが、恐怖心が身体を支配しているので彼女の脚は鉛のように重く意思が上手く伝わらず、まるで足の裏が床に張り付いているかのようだった。
「そのように言われるとは、つれないものです。別に、怖がらなくていいです。ねえ、巫女様」
セインはフィーナを安心させるかのように言葉を掛けるが、それを素直に受け入れられるものではない。彼の言動は一致しておらず、特に表情の歪みは相変わらずのもので、更に気持ち悪い妄想を繰り広げているのか口許が唾液で濡れ、光によってヌメヌメと輝いていた。
「い、嫌っ!」
「今からいいことをするんだから、そのように怖がられると困るんだよ。乱暴は、したくないし」
「何を……一体……」
「天国に、連れて行ってあげる」
「えっ!?」
「天国」という単語に一瞬フィーナは引っ掛かるも、すぐにその単語の裏側に隠された真実を知る。それはセインにとっては天国といっていいものだが、彼女にとっては地獄そのもの。そして徐に纏っている服を脱ぎ出すセインの姿に、フィーナはか細い悲鳴を上げた。
恐怖で立ち竦んでいるフィーナの手首を掴み自身の側に引き寄せると、彼女のか細い身体を抱き締める。嫌悪感を抱いている者に抱き締められたことにフィーナは身動ぎし必死に抵抗を試みるも、想像以上の力で抱き締められているのでセインから逃れることはできない。


