新緑の癒し手


 ああ、女神よ――

 祈りの言葉は、自分に都合がいいもの。セインは彼等が不在なのは女神のご導きで、自分が巫女の夫に相応しい人物と認めてくれたのだと勘違いする。何事も自分に有利に働く状況にセインの考えはますます増徴し、自分の意思だけでは止められない状況までいってしまう。

 奪え。

 奪ってしまえ。

 泣き叫んでもいい。

 セインの耳元で、誰かが囁く。勿論、彼の周囲に誰かがいるわけではない。その声の主は女神の囁きか、それともセインの裏の心の声か――どちらにせよ、完全に狂ってしまった現在の状況では判断が難しい。今、彼の頭の中にあるのは「巫女を我が物に」という考えのみ。

 さあ、自分以外の音がいないとわからせよ。

 再び、誰かが耳元で囁く。その囁きにセインは軽く頷くと、口許を緩めにんまりとした表情を作る。彼の表情は日頃娼婦を抱いている時のもととは違い、完全に獲物を仕留める目付きだった。フィーナの身体と心が、どうなっても構わない。ただ自分の存在を刻み込み、溺れさせるだけ。

 自分には、それを可能にするだけの自負があった。知識とテクニックは誰にも負けない自信があり、更に娼婦相手に磨きを掛け多くのやり方を学習する。その結果、百戦錬磨と呼ばれる娼婦もセインの前では根を上げるほどで、何時間も抱き続けるだけの体力も存在する。

 これで相手が落ちないわけがなく、それに自分自身の肉体にも自信を持っていた。これを用いて、何人の娼婦を落としたか――快楽に塗れていた日々を思い出し、セインの身体が感激のあまりに震える。また記憶の再生は興奮を司る部分をも刺激したのだろう、目が充血しだす。

 我慢できない。

 早く。

 早く。

 それは呪いの言葉のようで、セインの感情を縛り付けていく。彼の思考能力の大半は停止し、働いている部分は欲望を司る部分。まさにフィーナを抱くことだけで動いているといっていい状態で、広い神殿の中真っ直ぐ迷わずにセインはフィーナの私室の前に辿り着く。

 彼女を抱くことが前面に出ているので、巫女に対しての敬意などどうでもよかった。セインは乱暴に扉を開くと、部屋の中を見回し対象物を捜す。そして対象物であるフィーナを見付けると、嬉しさのあまり大声で笑い出す。その笑い声は不気味そのもので、まさに悪魔の笑いだった。