ヘルバさえも今のダレスを止めることはできないが、それ以前にダレスに言われたと言うわけではなく、これに関しては止める気など最初から持ち合わせていない。ただ、彼が思うのは「いい加減にツケの清算をしろ」というもの。そして、その清算は今日訪れた――
竜の皮膜が張られたような両翼が開かれ、力強く何度も羽ばたきだす。それに伴い生み出された気流は木々を揺らすと同時にヘルバに襲い掛かり、彼は反射的に片腕で視界を覆う。ダレスは気流を掴み舞い上がると、人間が崇めている女神が祀られている神殿に向かう。
(くそ、時間が……)
ダレスの姿を追うようにヘルバは見上げると、空は茜色というより闇が覆い尽くさんとしている空の状況に気付く。完全に夜になっているわけではないので、襲い掛かる前にフィーナを救い出せるかもしれないが、セインは時に予想外の行動に出るので油断はできない。
それに、真っ正直に彼の「今夜」を受け入れられるかどうか――セインの読めない行動について考えていると、身体の奥底に眠っている何かがざわめきだす。それは何かを訴えかけているかのようなもので、感情を揺さ振っていく。唯一理解でいるのは「危険」の二文字。
自分達に有利になることがひとつもないことにヘルバは毒付くと、ダレスの後を追おうと両翼を広げる。するとその時、先程までダレスがいた場所に何かが落ちていることに気付く。それはダレスがフィーナへのプレゼントということで探し当てた、半透明の石だった。
竜の姿に戻った時に落してしまったのだろう、ヘルバは大事な落し代物を拾い上げる。これはダレスにとって重要な物で、フィーナに好意を抱いている象徴のようなもの。無くしたとわかれば後で悲しむだろう、ヘルバはフッと笑みを漏らすとポケットに仕舞い込んだ。
石がポケットの奥底に納められたのを確認するかのようにポンっと一度叩くと、ヘルバは両翼を開く。有翼人は飛ぶ為に進化した種族だが、早い速度で飛べるわけではない。よって攻撃力と飛ぶことに長けている竜族の血が混じるダレスに、簡単に追い付くことできないでいた。
◇◆◇◆◇◆
ヘルバの予想は、最悪のかたちとなって的中する。確かにセインは「今夜」と言っていたが、我慢の限界に達してしまったのだろう、セインはフィーナの寝室へふら付いた足取りで向かう。彼にとって好都合な点は目障りなダレスと有翼人がいないことだろう、怪しい笑みが漏れる。


