早く。
急がないと――
ヘルバは両翼を広げ気流を掴むと、大空に舞う。彼が向かうのは、ダレスが身を潜めている場所。そして彼に、セインが何を考え何を仕出かそうとしているのか伝えないといけない。彼だけには好き勝手にさせるわけにはいかず、何よりフィーナの身を第一に優先とする。
阿呆に純潔を奪われたら、フィーナは自身の命を捨てる。それは冗談ではなく、彼女の性格を思えばこそ可能性として有り得る。彼女は今、ダレスに好意を抱いている。だから彼以外の異性に抱かれることは彼女にとって嫌悪感そのもので、ましてやダレスに知られたくない。
あんな奴の為に、命を落す必要はない。
あんな奴に、汚される必要はない。
種族が違えど、ヘルバは同じ性別を持つ者としてセインを軽蔑している。彼がこれからやろうとしていることは男として最低な行為のひとつで、女を道具として見ていない証拠。だからヘルバは、ダレスのもとへ急ぐ。このおぞましいともいえる行動を止めてもらう為に――
◇◆◇◆◇◆
鬱蒼と茂る森の中に、ヘルバは舞い降りる。しかしいつも利用している建物の中に、彼の姿はない。何処かで何かをしているのだろうと、ダレスが用事を済ませていそうな箇所を重点的に捜すが、彼の姿が発見されることはない。それどころか、無駄に時間だけが過ぎる。
(くそ、何処だ……)
セインは今夜、フィーナを襲おうとしている。その前に何が何でもダレスを見付け、彼の野望を挫かないといけない。それだというのに肝心のダレスは見当たらず、苛立ちだけが募る。珍しくヘルバは舌打ちすると、こうなった最後の手段とばかりにダレスの名前を叫ぶ。
森の中に響き渡る、友の名前。それは幾重にも反響し森全体に広がっていくが、それに対しての反応はない。それでも諦めた時点で負けが決定することを知っているヘルバは、もう一度叫ぶ。するとそれに反応するかのように、彼の近くから枝と枝が擦れる音が響いた。
音が響いた方向に視線を向ければ、下草を踏み鳴らしながら木々の間から姿を現したのはダレス。先程まで何か作業をしていたのだろう、髪から水で濡れている。やっとダレスが見付かったことにヘルバは安堵感を覚えるが、だからといってぐずぐずしている余裕はない。


