ヘルバにしてみれば、絶縁されるのが遅すぎたのではないかと考える。そもそも見習い神官の立場で娼婦相手に宜しくやっている時点で、女神に仕える資格などない。傷口は大きくなる前に塞いだ方がいいというが、絶縁という方法を用いても巨大化した傷口は塞ぎきれない。
寧ろその傷口から膿が溢れ出し、別の意味で名門家の名前に傷を付ける。それに真っ先に気付いたのはヘルバで、やはり断片的に聞こえてくる単語から判明する。「巫女」と「今夜」の二つの単語で、ヘルバはセインが何を考え何を仕出かそうとしているのか瞬時に判断する。
ヘルバの予想が正しければ、セインは今夜フィーナを襲おうとしている。それだけは、何としてでも避けないといけない。彼女はヘルバにとって友人である。いや、それ以上に好意を抱いているダレスと添い遂げさせたかった。だから、あの阿呆に抱かれては彼女が汚れてしまう。
互いの同意がない中での行為ほど、惨めで悲惨なものはない。特に今のセインの歪み切った精神状態では何を仕出かすかわかったものではなく、完全に優しさは欠落している。最悪、フィーナの肉体だけではなく精神もボロボロにされ、廃人状態になってしまったら洒落にならない。
セインが仕出かそうとしている状況に、ヘルバは苦虫を噛み潰したような表情を作る。この場合、フィーナに言い自分の身を守るように指示を出すか。しかしそれでは逆に恐怖心を煽ってしまい、下手にパニックに陥ってしまう。それなら自分がセインを撃退し、救い出す方がいいか。
だが、多少腕が立つとはいえ、武芸に長けているわけではない。特に精神が狂っている状態では、相手の攻撃パターンが読み難い。あの時は腹に一撃食らわせることで撃退できたが、今回も同じように撃退できるとは限らない。だとしたら、ダレスに手を貸して貰うのが一番。
ダレスは武芸に長け、何よりフィーナのことを大事に思っている。セインが彼女を狙っていると聞けば、すぐに彼女を救い出してくれるだろう。唯一の問題といえば、血の呪縛による感情の起伏。ある程度は治まってきているだろうが、まだ完全に制御できるわけではない。
感情の起伏により、確実に竜の姿に戻ってしまう。結果的に人間の世界に多大なる影響を与えてしまうだろうが、これはこれで仕方がないとヘルバは考える。そもそもこのようなことになってしまう原因を作ったのは彼等であって、別にダレスが何をしようが関係ない。
阿呆にきちんと教育を施し、それ相応の見習い神官に仕上げなかった側が悪い。それに「不浄」と言われ他の種族を見下してきたのだから、いい薬になるだろう。また、セインが考えているフィーナへの仕打ちを思うと、冷静に構え感情を抑え込んでいられる方がおかしい。


