新緑の癒し手


 ナーバルが内に秘めているモノはあまりにも巨大で、歴代の神官の中で一番強い闇を抱えているといっていい。邪魔者は許さない――その信念で動き、言葉の通り足枷となるモノを排除していく。しかし盲目的に突き進んだ先に待っているモノが、幸福を齎すモノとは限らない。

 狂気から発生するのは悪夢。

 災いが導くのは絶望。

 そして――

 一方的に売ってきた喧嘩の代償は、いつか支払わなければいけない。それに気付いているのは、フィーナとフィル王子。だが、彼等の言葉は腐り切った者達の耳には届かない。そして一歩一歩と足音を響かせずに忍び寄ってくるのが、本当の意味での恐怖といっていい。

 それが、人間の世界を覆い尽くすのはいつになるのか。いや、そもそも自分達が恐怖を味わうべき種族とは彼等は認識していない。敗因は、認識不足か思慮のなさか。見誤るべき要素は多岐に渡っていたが、立ち止まり引き返すことを止めた者達に残されたのは崩壊のみ。


◇◆◇◆◇◆


 不穏な気配を発している者は、必然的に周囲にどす黒い空気を漂わせている。そのどす黒い空気をいち早く気付いたのはヘルバで、いつもと違うセインの姿に眉を顰める。そして、勘のいい彼の第六感が囁くのは「危険」の二文字。また、寒気に等しい何かが身体を襲う。

(……あいつ)

 これだけではセインが何を考えているのかはわからないが、彼の性格上碌でもないことを考えているのは明白だった。ヘルバはセインに気付かれないように側に近付き、彼の行動を窺う。近付いてわかるのは彼の目が完全に据わっているということと、ボソボソと何かを呟いていること。

 ヘルバはセインが何を呟いているのか聞き取ろうと、耳に意識を集中させる。ある程度互いの間に距離があったので全てを上手く聞き取ることはできなかったが、断片的に耳に届く「絶縁された」や「裏切られた」という単語で、セインの身に何があったのか知ることができた。

(なるほど)

 見習い神官という立場ながら好き勝手に振舞っていた結果、父親の逆鱗に触れてしまった。結果、一族そのものから絶縁されあらゆるモノを奪い取られてしまった。セインが置かれている状況を知ったヘルバは、これはこれで仕方がないことでまさに自業自得だと鼻で笑う。