新緑の癒し手


 娼婦の全員がセインを馬鹿にするかのように手を振ると、一度も温かい言葉を掛けることなく退散してく。彼女達に一方的に自分自身を否定されたことに更に惨めさが増したのか、セインは体内に溜まったモノを吐き出すかのように毒付くと、小さい子供のように癇癪を起こした。

 何故、誰もが馬鹿にする。

 どうして、自分だけ。

 自分は、最高の血筋だ。

 全てが、忌々しい。

 それは些細な不幸であったとしても、セインにとっては最大級の不幸。自分は名門一族の出身で、場末で暮らす娼婦に罵られる理由もない。普通であったら彼女達の方から頭を下げ客として来て欲しいと懇願するのが正しいと考え、丁重に扱ってくれない彼女達に苛立つ。

 なら――

 一族の名前を使って、このような娼館を潰してしまえばいい。欲望の捌け口となる場所が無くなってしまうのは惜しいが、プライドを傷付けられたことに対しての仕返しをしてやらないと、セインの気が治まらない。だからこそ父親に頼み、徹底的に潰そうと考え出す。

 セインは、自分のプライドを傷付けたことは即ち一族の名前そのものも傷付けたことに等しいことらしく、女主人サニアを含め娼婦全員が土下座しなければ許さないと息巻く。しかし、彼は全くといっていいほど気付いていない。自分の行動こそが、傷付けていることを――

 セインは身体に付いた汗と精液を手馴れた手付きで手早く拭き取ると、床に乱暴に脱ぎ散らした服を手に取り着替える。今回もツケで娼婦を抱いたので、金を支払うことはしない。そのことに罪悪感を覚えないのだろう、堂々とした態度で正面の出入り口から帰宅する。

 いつものふてぶてしい態度にサニアは、ツケ払いをしているのだからもう少し謙虚な態度で帰宅しても罰は当たらないと呟く。それに同調するように同じように見守っていた娼婦の面々が一斉に頷き、相変わらずプライドのみで生きているセインを馬鹿にするのだった。


◇◆◇◆◇◆


 神殿に戻ったセインは真っ先に父親のナーバルのもとへ行くと、自分が体験したことを語っていく。その話は誇張し尚且つ尾鰭まで付く始末で、聞き方によっては全て娼婦が悪いように捉えることもできるが、息子そのものを見捨てているナーバルにとってはどうでもよかった。