新緑の癒し手


 互いの間に漂う、重い空気。

 そして、肌を刺激する圧力。

 だからといって長く沈黙を続けているのは精神的にいいものではなく、セイン自身限界が近かった。その為、意を決し視線を父親に向けるとどのような理由で自分を呼び出したのか、恐る恐る尋ねる。しかし父親から返って来た言葉は、更に彼を追い詰めるものだった。

「その前に、臭うな」

「汗臭い?」

「その臭いではない」

「す、すみません」

「身体を洗ってこなかったのか」

「じ、時間が……」

 ナーバルが言う「臭い」というのは、セインの身体から漂う男女の情交が混じり合った悪臭。その臭いはナーバルの鼻腔と神経を刺激し、口調が荒々しいものへ変化していく。漂う悪臭を遮るようにナーバルは神官服の袖口で鼻を覆うと、二度と娼館に行かないことを約束させる。

「い、いや……」

「何だ、その言い方は」

「その前に、お願いが……」

「願い?」

「これを――」

 父親の目の前に差し出したのは、娼館の女主人サニアから受け取った紙。ナーバルはそれを受け取ると書かれている文字を黙読するが、途中でどのような物かわかったのか、鋭い眼光を息子に向けた。

「これをどうしろと」

「支払って……欲しいな」

「貴様はどこまでも……」

「お、怒らないで下さい」

 毎日のように何人もの娼婦相手に宜しくやっている他に、娼館に多額の借金を作っていた。その事実にナーバルの顔は赤く染まり後頭部から湯気が立ち上る勢いであったが、冷静な一面は残っていたのだろう、セインから受け取った紙を破り捨てるという行為は行なわなかった。

 ファーデン家の財力を考えれば支払えない金額ではないが「娼館に金を支払い」という点が許せなかった。しかしセインを呼び出した理由を考えると、馬鹿息子の借金を背負うのも安いものである。そして頭の中で計画を巡らしていくと、ナーバルは徐々に普段の冷静な一面を取り戻していく。