新緑の癒し手


 だが父親の呼び出しがあるので、いつまでも支払い方法で揉めている場合ではない。セインは盛大な溜息を付いた後、嫌々ながらツケの支払いを父親に相談すると約束する。その言葉にサニアは口許を緩め満足そうに頷き返すと、金額が書かれた紙をセインに差し出す。

 捨てないように。

 と、言葉を付け加えて。

 セインと付き合いが長いので彼の性格を熟知しているのか、ダレス同様に彼の行動を先読みする。サニアの言葉にセインは「わかっている」と返すが、痛い部分を突かれたのだろう紙を受け取る手が震えていた。

「では、早めに――」

「何度も言わなくていい」

「都合が悪いことは、忘れやすいから」

「煩い」

 同じ言葉が繰り返されることに苛立ちを覚えたのか、そのように吐き捨てると大股で娼館から出て行く。相変わらず子供っぽい一面が強いセインの姿に、サニアは肩を竦めていた。

「では、俺も――」

 先にセインを行かせると何処で寄り道をするかわかったものではないので、早く後を追わないといけない。ダレスはサニアに軽く頭を垂れると、駆け足でセインの後を追い彼を捕獲するのだった。


◇◆◇◆◇◆


 ダレスの手で連れ戻されたセインは、父親の前に引き摺り出された。互いの間に存在するピリピリとした殺気が籠められた独自の空気は、ナーバルが発しているオーラが作り出しているもの。

 その空気にセインは萎縮し、また父親と目を合わせると殺されるとわかっているのか、横を向いている。息子の情けなく惨めな姿にナーバルは顔を引き攣らせると、一言「馬鹿者」と、叱り付けた。

 大気が振動するほどの激昂に、セインの身体が小刻みに震える。想像以上の迫力にセインは逃げ出したい心境に駆られるが、自分が置かれている立場と父親の機嫌の悪さを考えると不可能に近い。

 現在、セインが父親と対面している場所は、神殿内に存在するナーバル専用の私室。勿論、大声を出しても誰かが救いの手を差し伸べるわけもなく、黙って父親の迫力に耐えるしかない。それに少しでも気を緩めたら気絶してしまいそうな圧迫感に、セインは泣きそうだった。