新緑の癒し手


「人間の見方が変わった」

「意外だ」

「娼館の女将や娼婦に会って、人間の中にも信頼できる者がいると感じた。特に、女将は切れ者だ」

「お前もそう思ったか」

「神官より頭がいいんじゃないかって、本気で思った。多くの人間を見ていなければ、あのようなことは言えない」

「娼館は、あらゆる素性の者が春を求めやって来る。必然的に、人間を見る目も養われていく」

 ダレスの説明に、ヘルバは納得したように頷く。神殿も同じように多くの人間が集まるが、神殿は場末に存在する娼館とは違い女神イリージアを祀る神聖な場所。その大半が利口な人間で、そもそも娼館で働く娼婦やその者と遊んでいる人物に神官はいい印象を抱いていない。

 しかし場末のような現実社会からかけ離れた場所にこそ、人間が放つ本音が転がっているもの。それを長年見聞きしているからこそ、娼館の女将は酸いも甘いもかぎ分けられるまでに成長した。そして今では、特権階級に溺れきっている神官に辛辣な言葉を言い続ける。

「彼女は強い」

「実感が篭っているな」

「あの女将は、男を投げ飛ばす」

「う、嘘だろう」

「本当だ。以前、気に入らない客を俺の目の前で投げ飛ばしていた。だから、甘く見ない方がいい」

「……覚えておく」

 彼女を只者ではないと思っていたが、まさか男を投げ飛ばした過去を持っていたとは――再び会う場合、言動には細心の注意を払わないといけないと思いヘルバの身体が微かに震えた。だが、それほどまでの人物がいるのは心強いことであり、まさに最強の女性といっていい。

 ヘルバとの会話の間、着替えていたダレスが草陰から姿を現す。タオルで水分を拭き取ったとはいえ、髪の水分は完全に吸収させることができなかったらしく、全体的に濡れている。ヘルバがそのことを指摘すると「自然に乾く」と言い、特に気にしている様子はない。

 友人の相変わらずの態度に呆れてしまうが、長年の付き合いから何を言っても無駄とわかっているので、ダレスの行動に任せる。それでも、ひとつ言わなければいけないことがあったことを思い出す。それはフィーナと一緒になった先に待ち受けているものに対して、覚悟があるのかというもの。